Salesforce.comがAIに本腰、競合とどこが違うのか:Weekly Memo(2/2 ページ)
世界の有力なITベンダーがこぞってAI技術の研究開発と事業化に注力する中、独立系クラウドサービス専業最大手のSalesforce.comが満を持してAI戦略を打ち出した。果たして競合他社と比べてどこが違うのか。
「AIを提供する他のベンダーを競合とは考えていない」と主張
では、Einsteinは具体的にどのような形で提供されるのか。それを示したのが図2である。すなわち、セールス、サービス、マーケティング、コミュニティー、IoT(Internet of Things)、アナリティクス、アプリケーション、コマースといった、Salesforceが提供する8つのクラウドサービスにそれぞれ組み込まれた形で、個々に記されているような機能を提供する。
例えば、Sales CloudではEinsteinを活用して「予測によるリードスコアリング」「商談に関するインサイト」「活動の自動キャプチャ」といった機能が提供されるといった具合だ。Salesforceはまず10月に、5つのクラウドサービスにおいてEinsteinを活用した17種類の機能を提供開始しており、2017年2月には8つのクラウドサービスに拡大する予定だ。
さて、ここまでの説明で、SalesforceのAI戦略における競合他社との違いはもうお分かりいただけただろう。つまりは、Einsteinは「SalesforceユーザーのためのAIプラットフォーム」ということである。
とはいえ、AIに打って出たからには、Salesforceも競合他社と技術水準において引けをとらないように戦い続けていかなくてはならないのではないか。とりわけ、AIによる処理の高速化に向けて、競合他社ではインフラであるコンピューティングパワーの増強に注力する動きもこのところ目立ってきている。
そうなると、技術力もさることながら投資力の戦いになってくる。Salesforceは真っ向からそうした戦いに挑むのか。そんな疑問を会見の質疑応答でぶつけてみたところ、セールスフォース・ドットコムの及川喜之 最高技術責任者(CTO)が次のように答えた。
「どのベンダーのAIも技術水準にさほど差はない。違いはその技術を活用する目的にある。当社はあくまでSalesforceユーザーにさらに便利な機能を提供することを目的としており、開発者向けにサービスを提供している他社とは全く方向性が違うので、競合しているとは考えていない。また、インフラについては、当社は自前にこだわっておらず、必要なリソースを今後も調達していく」
確かに、競合他社のAIサービスは開発者向けが多い。開発者を増やすことで自社のAIが適用されたアプリケーションやサービスを広げようという狙いだが、Salesforceはあくまで自社のユーザーにサービスをさらにスマートに活用してもらえるようにしようというスタンスだ。冒頭で紹介したアインシュタイン博士の言葉に当てはめると、「誰かのために」は「ユーザーのために」である。既に多くのユーザーを持つSalesforceの現実的で手堅いアプローチといえそうだ。
同社が11月17日(米国時間)に公表した売上高の見通しでは、2017年度(2017年1月期)に83億ドルを超え、2018年度(2018年1月期)には100億ドル超が確実になった。AIによるサービスの進化で、成長にさらなる弾みがつくか。注目しておきたい。
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