なぜ“マツコロイド”と“マツコ”の雑談は失敗したのか?:【総力特集】人とAIの共存で進化する「おもてなし」(4/4 ページ)
ドラえもんや鉄腕アトムのような、人間と自然に会話ができる人工知能は本当に生まれるのか――。人間らしい自然なコミュニケーションを実現するために必要な“要件”はいろいろとあるが、人工知能にそれを適用するには、さまざまな壁があるのだという。
ユーザーの影響を受ける「人工知能」を目指して
人間の場合、このプランニングという行為は常識を上手く使って行うが、それに加えて、協調的な会話を行うためには、相手に合わせて話す内容を適宜プランニングしていくことも重要だ。そのため、対話システムには学習する仕組みが必要だと東中さんは強調する。ひいては、それが話したくなるシステムを実現する要件になるという。
「その人がよく使うフレーズを使うと仲良くなりやすいですし、日常的な情報も全部覚えてくれるとか、そういった技術も入れていかないといけません。“おもてなし”という観点で考えれば、やはり一人一人に合わせたシステムが理想ですが、音声認識や応答の方法、話し方についてもまだそのレベルに達していません。システムがユーザーの影響を受けない点にも問題があると思っています。
人間の場合、接する相手の影響を受けて成長し、最終的に人格が形成されていきます。学校に行って、褒められたり、怒られたりしながら人格ができていって、社会性を学んでいく。なので、最終的にはロボットの対話システムも、話しながら良くなっていくというのが理想ではあるんです。それをどこまで技術で加速できるかという点に尽きると思っています」(東中さん)
人が「雑談を続けたくなる」3つのポイント
こうした技術をフルに生かしても、長い間雑談を続けるのは難しい。エージェントサービスのように一時的に使うものならばよいが、毎日使うロボットであれば、雑談の割合は高まっていく。そのため、雑談がより長く続けられるよう、話を盛り上げるためのポイントについても、東中さんは研究しているそうだ。
「多くの人にペアになって会話してもらい、話のログから1つ1つの発言について、その発言をしたときに何を考えていたかを説明してもらいました。その結果、相手に合わせて話を盛り上げるために人間が考えることは10種類くらいあり、統計的にも有意に対話の質を高めると分かったのが、話題をうまく変える、話題を深掘りする、相手とリズムを合わせるの3つでした。話題の転換は先ほどお話しした通りですが、特に深掘りについては、人間と人工知能が仲良くなる上で必要だと分かっているので、これをどうシステム化するかが課題ですね」(東中さん)
最終回となる次回は、対話研究の最先端、そして対話システムや人工知能のこれからについてお話を伺っていく。
東中竜一郎氏プロフィール
1999年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、2001年に同大学大学院政策・メディア研究科修士課程、そして2008年に博士課程を修了。博士(学術)。
2001年に日本電信電話株式会社に入社。現在はNTTメディアインテリジェンス研究所に所属し、「しゃべってコンシェル」の質問応答機能の研究開発や、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトにおける英語科目を担当。人工知能学会理事・編集委員を務める。平成28年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞。
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