ビッグデータで株式投資はどう変わる? カブドットコムの先進事例:API公開からAI活用まで(2/3 ページ)
社長が自らデータに触れて、データの分析や活用を進めるカブドットコム証券。同社代表執行役社長の齋藤正勝氏が日本データマネジメント・コンソーシアムが主催するユーザー会で、データ活用の取り組みについて講演を行った。
もちろん、ヤフーなどの検索サイトでも株価を見ることができるが、投資家向けのカブドットコムの場合、高いリアルタイム性が求められる。
分析に使うデータはアクセスログが多いが、ほとんどは外部のマーケットデータを使うそうだ。中でも最もよく使うデータは、現在の注文数などの状況を示す「板情報」で、株の約定を時系列で表示する「歩み値」を獲得して計算し、1秒後の株価を予想しているという。
同社がユニークなのは、口座数や受注件数をはじめ、システムの稼働状況までも企業情報として開示している点だ。これは、齋藤氏自身がデータを扱えることで生まれたポリシーだ。
「こうした情報は法的には開示する必要がないものです。各社員には、『社長の自分がデータを扱えるのだから、皆で開示するデータを分析してまとめなさい』と伝えています。情報開示は一度行うと基本的にやめることができないものですが、各種情報を慎重に扱うことにもつながるため、いい企業文化だと思っています」(齋藤氏)
カブドットコムのデータ活用、7つの課題
ビジネスにデータ分析を生かす取り組みを続ける同社だが、まだまだ道半ばとのことで、データ活用における課題として、齋藤氏は以下の7つを挙げた。
- データを管理する部門(システム部)とデータを必要とする部門(マーケティング部・リスク管理等)の分断による非効率化
- 膨大な取引データ、ログデータ、属性データは蓄積しているだけで活用できていない
- 各部門で積極的にKPIを開示する志向はあるものの、それらを横断的にひもづける横断的な視点の不在
- ユーザー部門にとって、簡単にアクセスできるDWH環境がない
- バッチ処理で1日1回の更新するデータもあり、市況に合わせたリアルタイム性が確保できていない。データ量や複雑性が増大しており、求められる検索速度に至らない
- 分析者の試行錯誤やイマジネーション、都度のPDCAに耐え得る検索速度の確保
- ユーザー部門がデータソース設計に携わることがなく、リテラシーが向上していない。そのため要件ごとにシステム部に依頼し、データを抽出する体制になってしまい、対応コストが増大している
特に齋藤氏が課題に感じているのが、「ユーザー部門にとってアクセスが容易なDWH環境がない」ことと「バッチ的な処理もまだあるため、リアルタイム性に欠ける」ことだという。
「中には、SQLを自分で書いてデータをまとめられるメンバーもいますが、全てのユーザー部門にとってDWHが容易に扱えるかというとそうでもありません。そして、リアルタイム性が低くなるということは、データの価値が下がるということ。それが、当社の価値を下げてしまうことにもなりかねないので、リアルタイム性をどんどん追求していくようにしています」(齋藤氏)
そこで同社は2016年、プロジェクトチームを組成してDWH/BI基盤の導入を進め、「HPE Vertica」や「Tableau」を導入している。その結果、大規模データ処理の速度は向上し、BIツールも使いやすくなったという。特にBIツールについては、いくつかの製品で、実際の業務(顧客)データを使った(Proof of Concept=概念実証)を実施して検討した。
関連記事
- 「君たちはPCと机に向かうな」 ダイハツのIT部門が現場に飛び込んだ理由
自動車製造業のIT部門が、机に向かっているのは間違いだ――。社長の言葉を受けて、ダイハツの情シスは“インフラ運用部隊”と現場に飛び込む“遊撃隊”に分けられた。IT部門の存在意義とは何か。試行錯誤を繰り返す中で、ダイハツがたどり着いた答えとは? - コマツにおけるデータマネジメントの要はグローバル管理と一気通貫の流れ
超大型から最小クラスまでの建設機械の製造・販売を事業とするコマツ。部品点数が多く、バリエーションも多い建設機械を効率的に製造・販売するために、いかにデータ管理を実践しているのか。JDMCのデータマネジメント大賞も受賞したコマツのデータ管理を学ぶ。 - 680億PVのヤフーを支えるDWH活用、14年の歴史の“裏側”
100以上のサービスを展開し、月間680億PVの巨大ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」。そこで得られる膨大なデータを蓄積するデータ分析基盤はどうなっているのか。その全貌と苦労の歴史、そして“よりよい分析環境”を作るために意識していることを聞いた。 - オートバックスセブンが「2800万人」の顧客データを分析できた理由
1980年代から会員カードの発行を始め、1990年代にポイント制度を導入するなど、顧客の属性や購買行動を基にしたマーケティング活動を早くから始めてきたオートバックスセブン。近年は約2800万人のデータを分析しているが、分析精度を高める取り組みとともに、データ分析基盤の整備も行ってきた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.