姿を現した「メモリ主導型コンピューティング」の世界:「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(1/2 ページ)
性能の向上が頭打ちになってきた従来のコンピュータに代わる、新しいアーキテクチャのコンピュータが必要とされています。その特徴や技術について解説してきましたが、ついに現実のものになりました。今回はその様子をご紹介します。
今まで本連載でご紹介してきたように、データ爆発時代において性能向上が期待できなくなったコンピュータを使い続けることは、特に消費電力の面で大きな問題となります。私が所属する会社では「The Machine」というプロジェクトにおいて、この問題を60年間変わっていないアーキテクチャを根本から見直すことにより解決しようという、巨大な取り組みを遂行中です。
次世代の不揮発性メモリ、あるいはストレージクラスメモリで構成される記憶領域ではフォトニクスを利用した光伝送で結ぶユニバーサルメモリが中心となり、CPUは現在の汎用から用途特化型のコアに変わります。このアーキテクチャは、「メモリ主導型コンピューティング」と呼ばれます。2016年11月末にロンドンで開催されたHPEのカンファレンスで、このメモリ主導型コンピューティングが実際に登場しました。
The Machineは、2014年夏に発表され、それから2年を経た今、大きな一歩を踏み出しました。メモリ主導型コンピューティングのプロトタイプが動作しました。このプロトタイプの全体は上の写真のように、複数のノードで構成されていますが、1つのノードは下の写真のような形をしています。
このノードは、左側がコンピュート、右側がメモリプールという大きく2つの領域で成り立っています。一番左に各ノード同士とメモリプールの接続を担うスイッチモジュールがあり、この接続が将来的にフォトニクスを使用する部分です。
このプロトタイプはFPGA(Field Programmable Gate Array)で実装され、プロトタイプを通して得られた結果をもとに、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)化していくことになるでしょう。
中央にある仕切りの左側に、用途特化型コアとそのローカルメモリが配置されています。ローカルメモリ自体は用途特化型コアの直下に接続されていますが、メモリプールへのアクセスは上記のスイッチモジュール経由になります。そのため、スイッチモジュールからは仕切りを跨いだ配線がなされていまます。仕切りの右側はメモリプールです。不揮発性メモリを想定したこの部分は、上記のスイッチを経由しさらにバックプレーンを通して他のノードと接続されます。
このプロトタイプは、ハードウェアが試作されただけではなく、2016年10月24日に、複数ノードからなるシステムを一つのシステムとして、Linuxを拡張したOSを動作させることにも成功しています。プロジェクト開始からは5年以上、公表からも2年を経過したこの日は、プロジェクトにとって大きなマイルストーンとなりました。そして、「将来のコンピュータアーキテクチャの始まりの日」として記録されることも期待できます。
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