姿を現した「メモリ主導型コンピューティング」の世界:「ムーアの法則」を超える新世代コンピューティングの鼓動(2/2 ページ)
性能の向上が頭打ちになってきた従来のコンピュータに代わる、新しいアーキテクチャのコンピュータが必要とされています。その特徴や技術について解説してきましたが、ついに現実のものになりました。今回はその様子をご紹介します。
メモリ駆動型コンピューティングから広がること
このプロトタイプ上では、アプリケーションをメモリ駆動型コンピューティングに対応させるためのさまざまな実験やパフォーマンス計測が行われます。従来とは桁違いのメモリ領域を扱う未知の世界で起る問題を発見することになるでしょう。また、パフォーマンスは既存のアプリケーションを根本的に見直すことで、8000倍まで向上させることができるとされています。
セキュリティも実装されます。既存のコンピュータアーキテクチャは、それが生まれたときには外部から侵入されることなどありませんでした。そのためセキュリティ機能は、全てアドオン、つまり後付けになります。セキュリティを後付けすると、当然ながらパフォーマンスの劣化というトレードオフが発生します。せっかく新しいアーキテクチャをハードウェアレベルから作るわけですから、ハードウェア/ソフトウェアの両面においてビルトインのセキュリティを導入することが検討されています。
プロトタイプの稼働によって、メモリ主導型コンピューティング以外のプロジェクトのおける成果の提供も加速しました。数年先には、現在提供されているNVDIMM(不揮発性メモリ)を次世代の不揮発性メモリに置き換えていくことや、既存あるいはこれから販売される製品にフォトニクス技術が導入されます。
また、新しいアーキテクチャに欠かせないものとして、広帯域・低遅延のオープンなインターコネクト規格「Gen-Z」があります。Gen-Zのコンソーシアムにはチップベンダーやサーバーベンダ、ハイパフォーマンスコンピューティング分野のメーカー、OSベンダーなど、いくつもの会社が参加しています。近い将来に、次世代の不揮発性メモリが記憶領域の主たるプレイヤーになるとの予想をもとに、不揮発性メモリを既存のメモリと同様にロード/ストアするための活動へ取り組んでいます。
その他にも、プロトタイプのフォトニクスで採用されているVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)以外に、将来はmicroringを採用することで、毎秒テラビットオーダーの通信帯域を実現できることや、ビルトインのセキュリティの一環として、仮想マシン並みに安全性と分離性を高めたコンテナの開発、IoT時代における小型デバイスへのメモリ主導型コンピューティングの適用など、新世代のコンピューティングの世界が着々と近づいています。
このように、The Machineプロジェクトから生まれたメモリ主導型コンピューティングや、それに使われている個々の技術をどう適用していくか、HPEだけではなく、多くの企業が同様のことを考え始めています。つまり、それだけ現在のコンピュータが抱える問題に対するは有効な打開策が必要とされているのでしょう。
次回は、メモリ主導型コンピューティングで実現する世界について、もう少し触れてみたいと思います。
三宅祐典(みやけ ゆうすけ)
日本ヒューレット・パッカード株式会社の「The Machineエバンジェリスト」。Hewlett Packard Enterprise(HPE)の中央研究所「Hewlett Packard Labs」が認定するエバンジェリストであるとともに、普段はミッションクリティカルなサーバ製品を担当するプリセールスSEとして導入提案や技術支援を行う。ベンチマークセンターのエンジニアとしてHP-UXとOracleデータベースの拡販支援やサイジングを担当後、プリセールスエンジニアとして主に流通業のお客様やパートナー様の提案支援を経験し、現在に至る。
趣味はスキー、ダイビングといった道具でカバーできるスポーツ。三宅氏のブログはこちら。
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