IT投資、どうすれば経営陣を説得できる? 日本IBMのCTOに聞いてみた(2/3 ページ)
新聞でもAIやFintechといったキーワードが毎日のように取り上げられている今、ITトレンドに興味を持つ企業の経営者が増えつつある。「何か新しいビジネスができないか」と考える“経営陣”に正しくITを伝える重要性は増しているという。
今はWatsonをはじめとするコグニティブ技術やAI、Fintech、ブロックチェーンなど、ITを取り巻く環境が複雑になっています。IBMもさまざまな技術を持っていますが、それらをどう組み合わせるかの方向性を示したり、そういった動きを促進することを期待されています。そして、その価値をクライアントに示していくわけです。
昔は下からハードウェア、ミドルウェア、OS、アプリケーション……と考えればシステムができ上がりましたが、今はそうではありません。それを理解して、さまざまな人に分かりやすく説明するというのは、なかなか大変です。
ITに興味を持つ経営者が増えている
――実際に、企業の経営陣はITの進化をどう捉えているのでしょう?
久世氏: 研究所にいた頃からCEOやCOOなど、ビジネスサイドの方と話す機会は多かったのですが、ここ1〜2年は特にIT関連の話が増えていますね。さまざまな企業のトップや事業部の方が、自社を変革するためにどうITを使えばいいかを真剣に考えています。
ただ、経営者と事業部、そしてIT部門の関係性は、欧米の企業と日本企業ではやや異なるように感じます。特に製造業などでは顕著で、IT部門の“身分”は非常に低いですよね。しかし、今や製品の中にソフトウェアやITが入っているのは当たり前。エンタープライズITは、もはや基幹システムの話だけではありません。そういう意味で、最近はCTOとCIOを兼ねる企業が増えてきたと感じています。
さまざまな企業の経営陣と話していると、例えばIoTなどは「最近導入している企業が多いが、どう自分たちの事業やビジネスに貢献するのか。採算は取れるのか」とよく聞かれます。やはりROIを気にする人が多いですよね。
――攻めのIT投資や研究開発というのは、ROIと相性が悪いように思いますが……
久世氏: 確かに技術投資はそれなりに時間とコストが掛かります。だからこそ、さまざまな事例を踏まえて、その価値を立証していく必要があるでしょう。
例えば、とある健康飲料の会社では、ユーザーがどんな生活をしているかを知りたいというニーズがありました。IoTはすぐにセンサーを設置するような話になりがちですが、これならば、ユーザーのスマートフォンを使えば解決する可能性があります。マイクで足音などの生活音だけを取れば、この家には何人いるか、そして今日は元気があるかないかといったことも推測できる可能性があります。
そのような事例を出しつつ、事業形態を考慮してROIを出していくわけです。お客さまにWatsonを検討してもらうときも、コンサルタントや技術者が入って、業務の中でどう生かせるのかを2〜3カ月かけて検証します。これはCVA(Cognitive Value Assessment)と呼ばれているのですが、既存の業務か新たな業務か、データはあるか、どれだけの効果が見込めるかを調べて経営陣に理解してもらうことが重要です。
それとは別に、Watsonもパブリッククラウド(Bluemix)上でAPIを公開しているので、まずは動かしてもらう、というアプローチもあります。方法は何にせよ、スモールスタートがキーになるのだと思います。
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