IT投資、どうすれば経営陣を説得できる? 日本IBMのCTOに聞いてみた(3/3 ページ)
新聞でもAIやFintechといったキーワードが毎日のように取り上げられている今、ITトレンドに興味を持つ企業の経営者が増えつつある。「何か新しいビジネスができないか」と考える“経営陣”に正しくITを伝える重要性は増しているという。
ITとビジネスをつなぐ「人材」をどう作るか
――このほかにCTOとして、今やるべきだと感じていることはありますか?
久世氏: 先ほど話したように、CTOにはIBM内の技術を取りまとめたり、グローバルの技術研究とのつながりを強めたりといったミッションがあるのですが、今後はそれを支える人材が重要になると感じています。
今求められているのは、技術を中心にして、さまざまなことを考えてビジネスをリードできる人材ですね。これまでは技術研究員や製品開発、アーキテクト、サービスのデリバリーなど、職種ごとに求められるスキルがありましたが、今はさまざまな職種を経験をした人の方がパフォーマンスが高まると思います。
とはいえ、IBMも他社もそうかもしれませんが、いわゆるビジネスの評価基準が縦割りになってきているのは難しい問題ですね。長い目で見たら協力したほうがいい場面でも、余裕がなくなって、視点が短期的になると人が貸せない、出せない、交流できない、となる。これはこれから取り組むべき課題だと感じています。
技術者が新しいトレンドをリードできるようになるには、自分が昔やっていた基礎研究や、従来型のサービスにこだわっていてはダメですよね。ソーシャルメディアを活用して、さまざまなコミュニティーに参加し、自ら情報発信できる人も強い。個人的には、企業のビジネスにどれだけ大きな貢献をしたか、というよりかは、どれだけ新しいことを行ったかという点での評価を強くしたいですね。
そういう意味では、日本人はもっとアピールしたほうがいいですよ。私が基礎研究所の所長をしていた当時から、海外の研究所のメンバーの方は基本的に成果に対してアグレッシブです。10のうち5ぐらいの成果でも「大成功」と言い張るような(笑)。日本の研究者はいい仕事をしているのに、その点は少し残念です。
あと日本の場合、製造業や流通、金融といった企業と新しいサービス、ソリューションを作るケースが多いので、そういったユーザー企業との人材交流もとても大事だと思います。単なる交流にとどまらず、そこから新たな事業ができたらいい。
新しいITの波と日本の産業の強い部分が一緒になって進むことで、ITとビジネスは自然とつながっていくのではないでしょうか。日本はITに対する見方が少し厳しいがために、そのような動きが遅れているように思います。日本は従来型の欧米のITと違って、サービスや製品そのものにITをうまく融合することができる、高いポテンシャルがあるはず。そうすれば、日本は「もっと強くなる」と思っているんです。
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