なぜ新入社員に「最新ITトレンド」を教えなくてはならないのか?:ITソリューション塾(1/2 ページ)
未来を担う新社会人たちに手ほどきすべき「IT教育」とはどうあるべきか? 「最新ITトレンド」を教える意義と、新入社員向け「最新ITトレンド」講義の具体的な進め方を紹介します。
間もなく新入社員研修が始まります。私は幾つかの会社から企画段階からご相談をいただくのですが、「最新のITトレンド」を研修に最初から組み入れているところは、ほとんどありません。コンピュータや通信の動作原理、バッチ処理やリアルタイム処理などの情報処理の基礎やプログラミングの方法、自社の製品やサービスについては教えても、IoTや人工知能、クラウドやモバイルなど、ビジネスの現場で当たり交わされている言葉を体系立てて教えようとしているところは、ほとんどありません。
そんなことはありませんよ。教えていますよ。
ある企業の研修担当者から、こんなことを言われましたが、テキストを拝見すると、もはや内容は古く、しかも辞書のように単語を解説しているだけの内容で、ビジネスの現場に結び付けて考えることはできません。これでは、実践の現場では役にも立ちません。では、どのように教えれば良いのでしょうか。
なぜ新入社員に「最新ITトレンド」を教えなくてはならないのか?
- 現場の実践で交わされる言葉に戸惑わず、自信を持って応対できるようにするため
- 彼らの置かれている現実と未来を正しく理解させ、自分のこれからの仕事の意義を自覚させるため
- トレンドに対応することで自分たちのビジネスの存在意義を理解させ、トレンドを学び続けることの大切さを理解させるため
トレンドとは、生き物です。そして、ビジネスや生活の日常と深く関わっています。ITビジネスに関わる以上、その常識を身に付けておくことは、あいさつや名刺交換と同様に、ビジネスマナーです。なぜなら、そういう常識がなければ、お客さまとまともに会話さえできないからです。当たり前のことのようですが、この当たり前がちゃんと教えられていないようでは、教育として十分とはいえないのではではないでしょうか。
そもそも「トレンド」とは何か?
- トレンドとは「時流」。テクノロジーが生まれてきた過去から現在に至る歴史の流れ
- トレンドとは「法則」。テクノロジーの未来に何が起こるかを予測するメカニズム
- トレンドとは「構造」。テクノロジーは、お互いに影響し合い、関係を持って役割を果たしている
PCのディスプレイや雑誌にあふれるキーワードを脳みそにコピペしても、トレンドを理解したことにはなりません。トレンドは、過去から現在、そして未来に至る時間の流れの中で繰り広げられる壮大な物語なのです。キーワードを辞書のように並べ解説しても、そのつながりや関係は分かりません。
トレンドを理解するとは、今を理解するために過去の歴史を学び、未来を予測するために、テクノロジーが生み出され、注目されるようになった理由や進化の方向を知らなくてはなりません。
さまざまなキーワードを単語の意味として理解するのではなく、「時流」「構造」「法則」として体系的に捉えたものがトレンドなのです。
トレンドの何を教えるのか?
- 「物語」を教える。辞書のような解説や情報の断片では、人は記憶に留めることができない。「歴史的」「俯瞰的」「体系的」に整理された物語にしなくては、知識として記憶に残らない
- 「今」を教える。テクノロジーは、指数関数的に進化する。過去の常識は、あっという間に置き換えられる
- 「価値」を教える。テクノロジーは、手段であり、目的ではない。ビジネスや生活をどのように変え、どのような価値をもたらすかを伝えなくてはいけない
先ほども申し上げた通り、トレンドは体系的なつながりや関係です。しかし、それを図面のように解説しても理解を促すことは難しいでしょう。大切なことは、それを過去から現在、そして未来へ向かう物語として、仕立て上げることなのだと思います。
また、トレンドは、鮮度が大切です。去年使った内容がそのまま使えることなどあり得ません。もちろん、流行もあれば不易もありますから、両者は分けて伝えなければなりませんが、流行は、常にその時々の新しい言葉を紹介する必要があるのは当然のことです。例えば2017年であれば、IoTや人工知能、CPS(Cyber Physical Systems)、アンビエントテクノロジー、ディープラーニング、サーバレス、マイクロサービス、ブロックチェーンなどを伝えなくてはならないでしょう。こういう言葉が実際の現場にどのように存在し、ビジネスや生活に価値を生み出しているのかを伝えなくてはいけないのです。
最新のITトレンドの特徴は何か?
ITのカンブリア大爆発
- 1960年代〜 メインフレームを中心とした集中処理/生産性の向上
- 1980年代〜 PCの登場によるクライアントサーバ/適用領域と利用者の拡大
- 2000年代〜 インターネットの登場による接続の拡大/大規模な業務の統合や調整の実現
- 2010年代〜 モバイル、IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボット、ウェアラブルなどの登場と普及/テクノロジーのアンビエント化、日常への浸透
コンピュータがビジネスの現場に登場するのは、1950年代です。1964年のメインフレームの登場で、コンピュータは、多くの企業で使われるようになりました。1980年代に入り、PCの登場やオフコン・ミニコンといった小型コンピュータの台頭で業務への適用領域と利用者が一気に拡大します。その後、1990年代のインターネットの登場は、システムが低コストで相互に接続する世界を作り上げていきます。その結果、企業や地域を越えた大規模な業務の統合や調整が実現するようになったのです。そして、21世紀を迎え、クラウドの時代へとつながっていきます。
この辺りから、時代は大きな転換点を迎え始めました。インターネットの普及とクラウドの登場は、どこにいてもネットに接続さえすればさまざまなサービスを享受できる世界を実現しました。その結果、コンピュータの利用者は、これまでとは桁違いに拡大し、コンピュータの処理能力もこれまでとは桁違いの加速度で拡大するようになったのです。また、2007年のiPhoneの登場と期を同じくして登場するTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアは、このWebスケールの拡大をさらに加速し、膨大なデータを生み出しました。ビッグデータ時代の到来です。
Webスケールのインターネットとクラウド、そこから生み出されたビッグデータは、IoTの普及とともにさらに拡大する勢いです。このような基盤を支えに、人工知能やロボットが私たちの日常を大きく変えようとしているのです。
今の時代を何十年か先に振り返ると、ITの「カンブリア大爆発」があったと評されているかも知れません。「カンブリア大爆発」とは、およそ5億5000万年前に、それまで数十数種しかなかった生物が突如1万種にも爆発的に増加した出来事です。さまざまな形態を持った生物が生まれ、食うか食われるかの競争と淘汰(とうた)を繰り返しながら生物の多様性が育まれ、生態系築かれていきました。今の時代は、そんな時代の延長線上にあるといわれています。
ITの「カンブリア大爆発」とは、スマートマシンの進化が引き金となるでしょう。そこには、これまでのテクノロジーの脈略から大きく逸脱した新しい常識が生まれつつあります。このテクノロジーの延長線上に、これまでとは明らかに異なるIT活用の新たな可能性がどんどんと生まれてくるでしょう。そして、競争と淘汰を繰り返し、ITの新たなエコシステム=生態系を形成していくことになるのだろうと思っています。
私たちは、このような歴史の脈絡の中に生きているのです。この現実を新入社員にもしっかりと理解させることが必要です。そして、この世界で働くことの意義も合わせて、彼らに考えさせるべきではないでしょうか。
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