なぜ新入社員に「最新ITトレンド」を教えなくてはならないのか?:ITソリューション塾(2/2 ページ)
未来を担う新社会人たちに手ほどきすべき「IT教育」とはどうあるべきか? 「最新ITトレンド」を教える意義と、新入社員向け「最新ITトレンド」講義の具体的な進め方を紹介します。
新入社員向け「最新ITトレンド」講義の具体的な進め方
講義の進め方(1):テーマと順序
- 最新のITトレンドを俯瞰
- クラウドコンピューティング
- モバイルとウェアラブル
- ITインフラ
- IoT
- 人工知能とロボット
講義に際しては、「全体から詳細への流れ」が分かりやすいでしょう。まずは全体を示し、一つひとつのテーマを詳しく紹介していくと分かりやすいと思います。
講義の進め方(2):演出
- 講義スタート
- 問い掛け・笑い・目的や意義
- 休憩のタイミング
- 午前中は、1時間半程度で10分の休憩
- 午後は、1時間程度で10分の休憩
- 質問作り
- グループ(机の前後、3〜4人程度)で議論し質問を考える
- 立ったまま、移動して議論させる
講義は最初の「つかみ」が大切です。特に緊張し、身構えている受講者たちの緊張を解くことで、講師の話をリラックスして聞けるようになります。リラックスは、学習効果を高めるための前提です。また、「講義の意義や目的」もしっかり伝えることです。なぜこの講義に参加しているのか、その講義が自分たちのこれからにどれほど大切なのかを伝え、問い掛けとともに自覚させるといいでしょう。人は、目的や意義を持てなければ、気持ちが入りません。学ぼうという意欲も生まれません。このことを最初に伝えることです。
休憩は、「適宜」が原則です。受講者の様子を見ながら、判断すると良いでしょう。
ところで、質問を求めるときに「何かありませんか?」は、原則やってはいけません。こういう質問の多くは、「自分の話はうまく伝わっただろうか?」といった講師側の不安の解消のためでしかなく、教育的効果という視点を欠いています。
質問は、本来、受講者自身に自分の理解を再考させ、不足を補うために行われるものです。その目的を達するために、私は「グループで質問を考えさせる」ようにしています。5分程度、数人で質問について議論させ、考えさせるのです。これはいい刺激になり、他人との会話を通じて自分を客観視できる機会にもなります。また、座席から立たせて移動させ、立ったままで議論させます。これは、それまで使っていた左脳を休ませ、右脳を活性化させることになり、緊張と疲れが解消されます。ぜひ試していただきたいと思います。
そして、着席後は指名せず、自発的な質問を促します。受講者の性格や人間関係が見えてきます。
講義の進め方(3):質問
- 質問の目的
- 自分の疑問を解消する質問
- 「分からないので教えてもらえませんか?」ではなく、「私はこう理解したけど、正しいですか?」と尋ねることで、相手に自らの意図を明確にさせる
- 良い関係を構築する質問
- 出身地や珍しい名字などから相手の情報を引き出し、褒めることで、いい印象を与える。ただし、見え透いたお世辞は禁物
- 相手の力量を見極める質問
- 相手の知識や能力を推し量るため。ただし、自分がきちんと答えを持っていないと相手にばかにされ、権威が損なわれる
- 質問や回答への受け答え
- 最後まで聞く。途中で遮らない
- 相づちを打ちつつ、相手の話に同期する
- 大切なことを話しているときは、身を乗り出し、より大きなアクションで応対する
- 質問や回答は、こちらが整理して単純化し、「ということで良いですか?」と確認を促す
- 否定語を避ける。「それは違う」ではなく、「なるほど、そういう考えもあるが、こう考えてみてはどうだろう?」というように自発的な再考を促す
質問はそれ自身、明確な目的意識を持って行われるべきです。それをこのように整理してみました。前節の「グループでの質問作り」と組み合わせると効果的です。
講義の進め方(4):心掛けること
- 受講者との対話
- 「どう思う?」「本当に分かった?」「なんか、言いたいことありそうだねぇ」など、受講者の表情や集中の度合いなどを見極めながら、話しかける
- 受講者席に移動して話す
- 言葉の起伏
- 声の抑揚、沈黙と大声、感情の起伏(「え〜、参ったなぁ」「おっと、やるねえ」「かっけ〜」)など
- 自分の言葉
- 棒読みや丸暗記はダメ
- 自分の言葉ですらすらと出るようにする
講義は、「対話」です。講師は常に受講者の状況に神経を巡らせ、彼らの理解の具合や疲れ具合を感じ取りながら、言葉を換え、声掛けをし、ときには彼らの座席の中に入っていって話をするなど、講師と受講者の一体感を演出する必要があります。それが集中力を維持させるとともに、彼らの理解度や講義に対する満足感を高めることにつながります。
Eラーニングや本ではできないことを講師がやらなければ、講師としての存在意義はありません。ある意味“芸人”としてその時間をエンターティメントにすることも講師の役割といえるでしょう。
今日の受講者は集中力に欠けている。居眠りも多いし、なっちゃいない。
そんな不満を言う講師もいますが、それは責任のすり替えです。居眠りするのは講師の責任です。そうさせず、講義に集中させ、理解させることが、講師の責任であることを自覚しなくてはなりません。
スマホやパソコンをいじるな! 講義に集中しなさい。
そんなことを言う講師は、もはやトレンドを教える資格などありません。分からなければすぐに調べる、スマホやパソコンでメモをとることが当たり前の時代にそれを辞めさせようというのは、時代遅れも甚だしいことです。スマホやパソコンをいじっていると講義に集中できないからだと言う人もいますが、講義が面白ければ集中してくれるという当たり前のことを、受講者の責任にすり替えているだけのことなのです。
最後に
伝えたという自分の満足で終わらせず、伝わったという相手の真実を追求する。
講義であっても、講演であっても、あるいは商談での会話であっても、私はこの言葉を大切にしています。伝わらないのは、自分の伝え方が悪いのだという意識を持ち続けることが、コミュニケーションをうまく機能させる基本です。そのためには、相手の知識や経験の背景を想像し、どういう言葉がふさわしいかを考え、どこまで説明すれば良いかを常に意識しながら、自分の言葉を繰り出すことです。
自分の知っている言葉を語り、語り尽くした自分に自己陶酔しているようでは、講師失格です。
目の前にいるお客さまである受講者を、どうすれば満足させられるか。
そんなサービス提供者としての責任を自覚し、行動することも講師の責務です。
新入社員研修では、ぜひとも「最新ITトレンド」を教えてあげてください。自分たちの未来を託す彼らにそれを伝えることは、私たちの責務なのです
著者プロフィル:斎藤昌義
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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