JR東日本が山手線に導入した、故障予知の秘密兵器(1/3 ページ)
さまざまなデータがあるものの、まだシステムがバラバラで、分野をまたがった分析などができないというJR東日本。同社は社内のデータを横断的に利用できる、クラウドシステムプラットフォームを構築しようとしている。
東日本旅客鉄道(JR東日本)が、日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)が主催する「データマネジメント2017」の基調講演に登壇し、データを活用している数々のシーンを披露した。さまざまな場所でデータを収集しているJR東日本だが、具体的な活用が進んでいる領域はまだ多くないという。同社執行役員 総合企画本部 技術企画部長 兼 JR東日本研究開発センター所長の横山淳氏が話した、JR東日本のデータ活用の現状とは。
「日々列車を安全に動かす」ためのデータ活用
管内で1日当たり1700万人の乗客が利用するというJR東日本は、既に大量のデータを保有している。その内容は、列車の運行情報から車両の情報、設備の情報、顧客の情報、Suicaの情報、切符等の販売情報、自動販売機の販売情報など、多岐にわたる。しかし、現状おのおののシステムはバラバラで、個別にデータは参照できるが、分野をまたがったデータの相関を取ったり、付き合わせて分析したり、といったことはできていない。そのため同社では、まず分散している社内のデータを横断的に利用できる、クラウドシステムプラットフォームを構築する計画だ。このプラットフォームでは、APIでシステム同士を統合して参照でき、社外のデータも活用できるようにするという。
例えばSuicaのデータからは、どの駅にどれくらいの人がいるのか、おおよその数がリアルタイムで把握できる。もしこのSuicaのデータを運行データと連係することができれば、事故などで電車が止まった場合に「こっちに電車を動かさないと駅が人であふれる」とか、「駅間に止まっている電車を早く次の駅まで移動させた方がいい」といったことをリアルタイムで判断できるようになる。
「かつて鉄道は、事故などを教訓に、失敗から学んできた。しかし、センシングができるようになれば、オペレーションの状況などをリアルタイムにモニタリングし、成功から学べるようになると期待している」(横山氏)
また、こんなことも考えられる。並走する他社の路線で何かが起き、JRの路線に人が殺到した場合、その路線はすごく混雑するが、現状ではそれを理由に列車を増発したりはしない。あくまでも予定通りに列車を運行するだけだ。だが、例えば他社からの振替輸送が増えそうな状況が検知できたら、臨時列車を走らせるなど、状況に応じて対応ができれば、安全も確保しやすくなるし、利用者の満足度も上がる。
「日々列車を安全に動かすのが鉄道会社としての第一の使命。その使命を果たしながら新しいことを実現するのは、社内のカルチャーから見てもなかなか難しい。とはいえ、オープンイノベーションの力も借りて、1つでも2つでもいいから実現させていきたい。研究開発センターの実験施設などを社外に貸し出すことなども考えている」(横山氏)
具体的には、「モビリティ変革コンソーシアム(仮称)」を設立して、アイデアソンやハッカソンを開催し、アイデアが出てくる場を作りたいという。
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