働きやすさは「合理的な武器」に ハンズラボの長谷川流ワークスタイル改革(1/2 ページ)
デジタル改革を推進する武闘派CIOとして知られるハンズラボの長谷川秀樹氏。昼夜を問わずに働くタイプだった同氏が働き方改革を意識するようになったきっかけとは。
東急ハンズの執行役員 オムニチャネル推進部長である長谷川秀樹氏は、2008年にアクセンチュアから同社に転じて以来、売り場の社員をエンジニアとして育て、業務システムの内製化を推進したり、小売業向けのシステムを専門に開発するハンズラボを設立したり、ITによる改革を推進してきた。その過程で、エンジニアの働きやすさや生産性の向上も追求している。
ITmedia エンタープライズとITmedia ビジネスオンラインの共催で行われたセミナー、「勝ち組企業に学ぶ 『“イノベーションの武器”としてのワークスタイル変革』」で、長谷川氏が「従業員と経営の両方にとって都合の良いワークスタイルとは」と題して語った内容を紹介する。
長時間労働をいとわなかった、若きコンサルタント時代
外資系コンサルティング会社というと、昼夜を問わずに働くタフなイメージがある。新卒でアクセンチュアに入社した長谷川氏も、やはり長時間労働をいとわないタイプだった。
「20代の頃は、先輩が土曜日に出社するのに『お前は出なくていいよ』と言われたら、『不公平だ。俺も出させろ!』と食ってかかるようなタイプでした(笑)。働いた分、先輩だけがスキルアップをしていくのはずるいと思っていたんですね」
しかし今は、働く時間の長さと優秀さは比例するものではなく、なるべく短い時間で生産性を上げるのが良いと考えるようになった。同氏が社長を務めるハンズラボでは、ほとんど残業のない労働環境を実現しており、有給休暇の100%消化を強力に推進している。
そんな“ホワイトな”経営者になるに至った背景には、アクセンチュア時代の英国での経験があったという。欧州諸国の労働時間は、統計的にも日本と比べて短いが、同じ会社のプロジェクトでも「国が変わるとここまでやり方が違う」ということを、長谷川氏は身をもって知ったのだ。
英国赴任で身についた“残業しない”働き方
まず驚いたのは、有給休暇に対する意識の違いだという。会議で進ちょくの遅れを指摘されたチームリーダーが「私、来週はバケーションでいないんです」と平然と答え、プロジェクトマネジャー(PM)も「それなら仕方ない」と他のメンバーに協力を要請する――そんな場面を見て、「休暇に対する権利意識」が大きく違うと感じたそうだ。
日々の労働時間に対する考え方も、日本のシステム開発の現場とは全く違っていた。プロジェクトに入ったばかりの日本人が「最初だからやる気を見せよう」とちょっと残業をしたら、PMが飛んできて怒ったのだ。「入ったばかりのメンバーに残業するほど仕事があるはずはない。何をやっているんだ!」と問われたのだが、PMがそこまでナーバスになるのには、理由があった。日本でシステム開発の費用を見積もる場合、必要な工数を出し、さらに残業分も見込んで人件費を計算することがほとんどだろう。だが、英国のプロジェクトでは、「残業はない」という前提で見積もりされていたのだ。
「見積もりには、バッファはスケジュールに入れているとしても、残業をする前提での時間チャージは組み込まれていない。そりゃ、PMが飛んできて怒りますよね。残業したら赤字になるわけですから」
最初は「そんなんでプロジェクトは回るんかい!」と驚いた長谷川氏だが、日中に集中して仕事をし、時間になったらスパッとやめてプライベートを楽しむという欧州流の良さが分かるようになり、帰国後も残業をしない働き方が定着したという。
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