「クラウドは安くもないし、速くもない」――それでもマツダがAWSを導入した理由:AWS Summit Tokyo 2017(3/3 ページ)
AWSの年次イベント「AWS Summit Tokyo 2017」でマツダが登壇。CAEにクラウドを採用した背景、そしてクラウド導入で気を付けるべきポイントを語った。
価格優位性があったAWSを採用
今回はこうした条件のもと、衝突シミュレーションのサンプルを中心とした1500サンプルを期間内に計算できるベンダーのうち、最も安価であったAWSを選択。事前ベンチマークの結果、「スパコンを上回ることがない」と分かった計算速度については、過度な追求をしないことに決めた。
導入の結果、最適化計算を1週間で300サンプル処理することができ、無事に車体軽量化の計算を終えることができた。技術検証のスピードに貢献することが分かった一方で、計算結果がずれる可能性があるなどの課題も見えたと小平さんは話す。
「今回は、あくまで1つの案件でクラウドを利用できただけにすぎません。今後はAWS内でも、社内と同じ計算環境やポスト処理をできるようにし、AWSが提供するデータ分析技術も活用していきたいと考えています。そのためには、ユーザーサイドもクラウドの知識は必須になると感じました」(小平さん)
バージニアリージョンのサービス障害であわや……
利用を通じてメリットと課題が見えたのはIT部門も同様だ。2017年3月にバージニアリージョンで発生したサービス障害においても、Amazon S3を使っていなかったマツダのシステムは被害を受けなかったものの、「クラウド利用のリスクを検証するいい機会になった」と鐡本さんは言う。そして、もっと早くしてほしいし、安くしてほしい、というのがAWSへの要望だ。
「AWSはこれまで60回以上値下げしているわけですが、われわれとしてはまだまだ高いと思っています。スピードについても、スパコンよりも早くなければ、オンプレとの比較で負けてしまう。CAEソフトウェアのライセンスコストも、現状ではクラウド利用に向いたメニューがあるとはいえません。ベンダーを含む全てのプレイヤーが、クラウド環境への最適化を図らなければ、CAE分野でのクラウド活用は進まないと思います」(鐡本さん)
それでもクラウドは有用だ――そう感じたからこそ、マツダはAWSを導入し、セミナーに登壇した。今回はAWSを採用したが、自社の要件に合わせて適切なクラウドを選べるよう工夫するべきだという。クラウド活用の方法は企業によって異なるため、まずは実際に使ってみることが大事だと鐡本さんは話す。
「自社事例など、情報の公開なども大事だと思います。それぞれの企業が使った結果や知見を公開して、ベンダーなどの各プレイヤーに要望を出していく。クラウド利用の環境が整うようにするには、こうした活動を繰り返すことが大切ではないでしょうか」(鐡本さん)
関連記事
- 「君たちはPCと机に向かうな」 ダイハツのIT部門が現場に飛び込んだ理由
自動車製造業のIT部門が、机に向かっているのは間違いだ――。社長の言葉を受けて、ダイハツの情シスは“インフラ運用部隊”と現場に飛び込む“遊撃隊”に分けられた。IT部門の存在意義とは何か。試行錯誤を繰り返す中で、ダイハツがたどり着いた答えとは? - ホンダの“IT嫌い女子“が情シスの仕事に目覚めた理由(前編)
2014年、米ラスベガス――。本田技研の情シス 多田歩美さんは、各国から集まった聴衆を前に英語で導入事例の講演をしていた。入社当時、「IT嫌い」を公言し、3年で情シス部門から出て行くと息巻いていた彼女に一体何が起こったのか。 - データが変える、クルマの未来とIoT
すべてのモノがネットワークにつながる“IoT”時代、それは自動車も例外ではない。現在も通信機能を持つクルマ、いわゆる“コネクテッドカー”の普及が進みつつある。インターネットにつながる「未来のクルマ」とは、どのようなものなのだろうか。 - IoTが交通・運輸ビジネスを一変させる理由
人の暮らしやビジネスを一変させる可能性を持つ「Internet of Things(モノのインターネット)」。最近は交通や運輸分野での実証実験が盛んに行われている。ITによる交通マネジメントが必要とされる背景や、IoT化が進んだ未来の交通システムについて、オラクルで輸送業界担当を担当するラルフ・メンザーノ氏に聞いた。 - 形にならぬ設計者の思いを可視化、マツダCX-5を洗練させた設計探査
多目的最適化は自動で最適な設計解を出してくれる――そういった思い込みはないだろうか。実際、あくまで設計支援の技術だが、その効果は幅広い。マツダの「モノ造り革新」の先陣を切ったCX-5の設計開発において最適化が採用されている。同社に最適化を最大限活用する方法や得られる効果、課題について聞いた。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.