「いま、カバンの中にどんな本が入っていますか?」――営業配属が決まっている新入社員研修でこんな質問をしたところ、大半の人たちが「1冊も入っていない」と答えました。もちろんKindleさえ持っていません。
新聞についても、就活のため、研修のために読んでいる人はいるようですが、必ずしも習慣にはなっていないようです。
もはや昔のように、新聞が唯一の情報源ではなくなったとはいえ、網羅的に情報を収集するのに便利なツールであることに変わりはありません。そういうことにも関心が持てないということなのでしょうか。
世の中の常識を知り、多様な意見を知り、広い見識を持つことは社会人の基本で、本を読むということは、世の中の原理原則を知るための有効な手段であると私は信じています。そういうことを彼らに伝えるようにしていますが、残念なことに、そんな習慣のない彼らにとっては、私の話は「うざい」オヤジのたわ言にしか聞こえないのかもしれません。
情報収集を怠らないことは原理原則
最近、あるベテランのエンジニアと話す機会がありました。彼は、エンジニアにとってコンピュータサイエンスや数学は基本であると言っていました。表面的なテクノロジーは変わっても、原理原則が分かっていれば、すぐにキャッチアップできるし、その良しあしも容易に判断できます。そういうエンジニアは成長も早いし、仕事もできます。そういう原理原則を学ばないままに、あるいは、関心もないままに、新しいテクノロジーを「知っている」だけでは、結局は使いモノにならないという話でした。
営業でも同じことがいえるでしょう。例えば、私が主催する勉強会、ITソリューション塾では、講義終了後に「アルコール消毒会」を開催しています。夜も遅いし、家庭の事情もあるだろうから、あまり強くお勧めするわけではありませんが、できるだけ参加してほしいと願っています。経済的にも厳しい人もいるだろうから、3000円以上はお支払いいだかないようにしています。
呉越同舟、さまざまな人たちが参加するITソリューション塾なので、「アルコール消毒会」は新たな人のつながりを作る絶好のチャンスとなります。同業他社の様子や新しい視点を手に入れることもできるし、講義で聴けなかった「深い話」を引き出せる機会でもあります。受講者に営業が多いので、こういう場には積極的に顔を出してくれるかと思いきや、来る人は限られています。これは、ここ数年の傾向で、それだけ世の中が世知辛くなったのかもしれないと諦めてはいますが、何とも残念なことです。
営業という仕事は、「スパイ活動」です。情報と人のつながりを駆使して、自分たちに有利な世論をお客さまの中に作っていく取り組みなのです。そのためには、機会を逃さず、人のつながりを作り、情報収集を怠らないこと。これが営業の基本であり、原理原則であると私は考えています。
こういう機会に顔を出すことは、仕事になるならないにかかわらず、「人を相手にする」場であり、営業として自分を磨く好機であると思うのですが、なかなかそのことがピンとこないのかもしれません。
そういうことを折に触れて伝えてはいるのですが、心に響かないのか、あまり効果がないのが現状です。まあ、価値観であり、生き方であり、経済事情であり、それぞれに事情はあるから、それ以上のことは言いようがないわけですが、重ね重ね残念なことです。
自分の仕事を追求し、限界を感じたとき、原理原則の大切さは身に染みて分かるものです。それは、エンジニアであっても、営業であっても同じことでしょう。そういう経験をしてこなかったということなのか、そんなことをしなくても何とかなると思っているのか……。
しかし、もし自分が成長したいのであれば、そういう限界に自分を追い込んでみることです。そうすれば、原理原則の価値が分かります。
私たちの世界は原理原則が土台であって、モノゴトはその土台の上で機能しています。自分の仕事にとっての原理原則は何かということを考え、それを追求しようという態度は、間違えなく成功の礎となります。そのことを忘れないようにしたいものです。
著者プロフィール:斎藤昌義
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィールはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
関連記事
- 「ITソリューション塾」記事一覧
- 7月18日、デジタル改革塾開催 「AIは敵か味方か」
7月18日(火)、エンタープライズ編集部主催の勉強会、「デジタル改革塾」を開催します。今回のテーマは「AIは敵か味方か」。AIを味方につけて働き方を変えていく方法を考えてみませんか。 - 「失敗のリスクばかりを探し、現場のやる気を削ぐ人」にならないために
世の中には、「失敗のリスクを挙げ連ねて『すべきことを葬る』輩」が存在します。そんな「イノベーションの壁」にならないために持つべき「5つの視点」を紹介します。 - 敵は社内にあり! 抵抗勢力との向き合い方 「表に出た抵抗に対処する」
怒涛の勢いで抵抗にあっても、焦ってはいけない。表立った反応を見せる抵抗勢力に対処するには、「課題認識」のズレと「目指す姿」のズレに注目することがカギとなります。 - 人工知能って結局何なの? 知能と知性の違いから考える
人工知能という言葉が“マーケティング用語”のような形でちまたにあふれる昨今、人工知能に対してさまざまな誤解が生まれています。この連載では、いろいろな角度から、それらの誤解を検証していきます。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.