“守りの情シス”から“攻めの情シス”は生まれるか AGC旭硝子のPoC部隊奮闘記(前編):【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(1/2 ページ)
クラウド化で時間に余裕ができる情シスをPoC部隊に育てよう――。そんな取り組みを始めたのがAGC旭硝子の浅沼勉氏。その行く手には何が待ち受けているのか……。
今、企業の間で「IT部門を2分化」する動きがあるのをご存じだろうか。システムの信頼性と安全性を重視し、安定的に稼働させることを目指す“守りの部隊”だけでなく、現場の業務改善や付加価値サービスの創出を手掛ける“攻めの部隊”を社内に持とうという流れだ。
100年を超える歴史があるガラス製造大手のAGC旭硝子も、そんな“バイモーダル化”の取り組みを進める1社。2015年にAWSを導入したAGC旭硝子では、クラウド化によりハードウェアの保守運用から解放される情シスメンバーをトレーニングし、自社の新しいサービスや価値の創造に貢献する開発者を育てようとしている。
“攻めに転じたい”というパッションを持つ“守りの情シス”は、果たして生まれ変わることができるのか。その行く手にはどんな課題が待ち受け、それを乗り越えた先にはどんな景色が見えるのか――。
2017年春、社外講師とともに実際の開発プロジェクトを通じて実践スキルを学ぶプログラムをスタートさせた情報システム部 デジタル・イノベーショングループ マネージャーの浅沼勉氏にプロジェクトの全容を聞いた。
AWS導入以降に感じた情シスへの期待と現実のギャップ
AGC旭硝子の基幹システムは、現在は半数程度がAWS上に移行しており、あと2年もすれば自社のデータセンターはほぼ空っぽになる予定だ。浅沼氏はその2年後を見越し、情シスの変革を進めるべく試行錯誤してきた。
変革後の姿として浅沼氏がイメージするのは、ガートナーが提唱する「バイモーダル」なIT部門。業務システムを安定した状態で確実に運用していく「モード1」と、新たな価値の創出を目指してアジャイルに開発を進めていく「モード2」の2つのモードを、目的に応じて適用するという考え方だ。
今後もモード1の重要性は変わらないが、それに加えてモード2を担う“攻めのIT人材の育成”を急いでいる。
浅沼氏自身が社内業務システムの保守運用というモード1の仕事をしながらモード2を意識するようになった背景には、社外と社内、それぞれで得た気付きがある。1つは、会社の外で感じた「モノづくり」の変化だ。
「毎年8月にお台場で開催されるMaker Faireに、ここ5年くらい通っています。モノづくりが好きな人が集まる場で、5年前はちょうど世間で3Dプリンタが注目され始めたころです。Maker Faireでも3Dプリンタで何かを作るというのが多かったのですが、ここ2〜3年はモノに対してプログラミングでいろいろ足す、みたいな話が増えてきて、モノづくりが変わってきていることを実感しています。うちの会社もモノづくりが好きな人が多く、今までも『ITを使って良いガラスを作る』ということをすごく考えてきていますが、これからは、『ソフトウェアによってガラスの付加価値を高める』方向になっていくんじゃないかという気がしているのです」(浅沼氏)
会社の中では、以前は交流のなかった部門の人たちとのコミュニケーションによって気付かされたことがあった。
「以前の私たち情シスのイメージって、極端なことを言えば、『社内のPC屋』とか『経理のシステムを見ているんでしょ』とかいうものだったんですね。それがAWSを使うようになって『先端的なことも始めているんだね』と認識されるようになったみたいです。研究所、生産現場、商品開発といった、それまでは接しなかった人たちと話をするようになりました。そこで気づいたのが、彼らがやってほしいことに対して、自分たちがすぐに応えてあげられないということなんですね。『こういう画面がほしいんだけど』と言われた時に、『多分できますよ。ただしSIerに頼むので、これくらい時間と費用がかかります』と答えると、相手の興味はスーッと引いていく(笑)」(浅沼氏)
「こんなことはできる?」という相談を受けて、すぐにプロトタイプを作ってみるくらいのことは自分たちでできないと、会社の中でビジネスを動かしている人たちのニーズに応えられない――。そう気づいて、“内製できる情シスの育成”に動き出したのだ。
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