コレ1枚で分かる「日米のビジネス文化の違いとクラウド」:即席!3分で分かるITトレンド(2/2 ページ)
企業のクラウド利用のし方に影響するビジネス文化について把握しつつ、これからの日本のクラウドビジネスの行方と成長のヒントを探ります。
クラウド利用を握る予算権限者のシフトが鍵
クラウドを使う場面では、リソースの調達や構成の変更は、「セルフサービスポータル」といわれるWeb画面を使って行われます。必要なシステムの構成や条件を画面から入力することで、直ちに必要なシステム資源を手に入れることができます。
従来、このような作業は、業務要件を洗い出し、サイジングを行い、システム要件を決め、それに合わせたシステム構成と選定を行うことが必須でした。そして、価格交渉と見積もり作業を経て、発注に至ります。その上で、購買手配が行われ、物理マシンの調達、キッティング、据え付け、導入作業、テストを行っていました。この間、数カ月かかることも珍しくはありません。
クラウドでは、このような作業を必要とせず、Web画面で簡単に行うことができるわけですから、生産性は大いに向上します。
しかし、わが国のユーザー企業は、先ほど述べたような理由から、このような作業の多くをSIerに依存してきました。従って、いまさら自分でやれと言われても、簡単に対処できることではありません。
SIerとしても、その作業を手放すと、受注単価が下がり、人がいらなくなるわけですから、積極的にはなれません。ここに、暗黙の利害の一致が生まれており、これもまたクラウド利用が進まない足かせとなっていると考えられます。
ただ、最近は、AIやIoTといった事業の成果に直接影響を与えるIT利用への関心が高まる中、ITに関わる予算の意志決定は、事業部門にシフトしつつあります。
事業部門では、「工数がどれだけかかるか」で妥当性を判断するのではなく、投資対効果に見合うITの利用を模索しています。そのため、提案の内容次第で、大きな利益を期待することもできます。
また、不確実性の高いビジネス環境の下、初期投資リスクをできるだけ回避するとともに、変更に即応できるITを利用したいという思惑もあります。そうなれば、必然的にクラウドが選択肢となります。
一方、情報システム部門は、「既存サービスの運用や保守のレベルをそのままに、コストを削減したい」というモチベーションを持ち続けており、売上と利益を縮小させるプレッシャーを常に受け続けることになります。
このような予算権限者のシフトが、わが国におけるクラウド利用の促進を加速するのではないかと考えられます。SIerやITベンダーは、この現実に向き合わなくてはなりません。そうしなければ、企業を成長させることだけでなく、自身が生き残ることさえ難しくなります。
著者プロフィール:斎藤昌義
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィールはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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