Microsoftの「AIの民主化」に込められた意味:Microsoft Focus(2/2 ページ)
ロンドンで開催されたイベント「The AI Summit」にて、Microsoftは「AI for Earth」という新たなプログラムを発表した。同社は近年さまざまな場で「AIの民主化」をうたっているが、ここでの発表内容も踏まえ、そこに込められた意味を考えてみよう。
またMicrosoftは、「AIの民主化」を打ち出しており、さまざまな場でそう公言している。そして、「AIの進化は可能な限り、開放的で、公平でなくてはいけない」とも語っている。その姿勢を、「公平性(Fairness)」「説明責任(Accountability)」「透明性(Transparency)」「倫理(Ethics)」の頭文字を取り、FATEと呼んでいる。
これを実現するために、Microsoftのサティア・ナデラCEOは、2016年6月に「AIの規範と目標」を発表した。2016年9月には、Microsoft AI and Researchを設立し、研究所のほか、Bing、Cortana、Azure Machine Learningなどの製品グループから、合計で約7500人のコンピュータサイエンティスト、研究者、エンジニアを集結させた。
Microsoft AI and Researchのエグゼクティブバイスプレジデント、ハリー・シャム氏は、「50年以上前に、AIという研究分野が生まれた当時、コンピュータサイエンティストたちは、ただ夢見るしかなかった。だが今、AIは、進化の黄金時代を迎えている」と話す。
「コンピュータビジョン、深層学習、音声処理、自然言語処理といった分野で、コンピュータサイエンティストたちは毎日のように成果を上げ、これらのブレークスルーが、Microsoft Translatorなどの生活に役立つツールとして現実になった。
ごく最近まで、単なるファンタジーやSFに過ぎなかったツールが誕生し、言語の壁を打ち破り、コミュニケーションを促進することによって、さまざまな形で人々を支援することができている。AIの活用により、重要なメールを判断するといった一見単純な仕事から、パーソナライズされたガン治療法の発見などきわめて複雑な仕事まで、すでに多くの改善が達成されている」(シャム氏)
だが、「AIのツールと、テクノロジーの開発において、我々はまだ初期段階にあり、触覚、視覚、嗅覚などの感覚を使用して、周囲にある世界を理解し、やり取りできる能力は、幼児に遠く及ばない。Microsoftは、人間の創造性を広げるだけでなく、共通の社会的価値基準と期待に対応する形で、AIを進化させていくことに対して、責任があると考えている。人間性を支援するとともに、人間の能力を強化できなければならない」とも言う。
一方で、シャム氏は、AIの民主化を実現する上で、AIがブラックボックスのままではいけないことにも言及している点が興味深い。
「MicrosoftのAIやツールを使用している人々は、それがどのように機能しているのか、そして、どのようなデータに依存しているかを理解できる必要がある。AIを作り出した人々、そしてそれを使用する人々が、AIがどのように機能し、なぜそのような意思決定が行われたかを説明できれば、AIはさらに有用になり得る」とする。
AIのブラックボックス化は、今後、重要な課題の1つになってくるだろう。特に、自動運転をはじめとして、人の命に関わるような領域にAIが使われるようになると、AIのブラックボックス化は大きな課題になってくる。中身が分からないものに、命を預けることはできないからだ。
Microsoftはその点にも気が付いているといえる。シャム氏は「Microsoftは、AIの進化のスピードにブレーキをかけることはできないし、それを望んでもいない。しかし、AIを責任ある形で進展させていくことを望んでいる」とする。
AIをどういう姿勢で扱い、それを世の中に示し、広めていくのか。7月の英国でのイベントを通じて、Microsoftの姿勢がより明確になったのは明らかだ。
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