時給650円のバイトが教えてくれた「働きがい」のある職場の条件:榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』(4/4 ページ)
社員がいきいきと働ける職場職場をつくるには、何が必要なのか? そのヒントは、学生時代のファストフードのバイトの経験の中にあった。いったい、バイトの現場で何が起こっていたのだろうか。
ほどよい競争があった
「ほどよい」というのがポイントだ。もちろん、成績を数字で書き出してなんかいない。
「あの人のようにかっこよく仕事が回せるようになりたい」「同期のあいつはポテトがすごいから、俺はドレスで活躍するぜ」といった競争だ。30分あたりの売上高を競っていたこともあった。「やっくんと、松と、まゆきのメンバーでXX万も売り上げたらしいぜ? やるなー。今日のランチピークで、挑戦してみるか?」とか。
自分たちで面白がって競争環境を作っていたのかもしれない。誰かに与えられた競争ではなかったから、楽しかったのかもしれない。
憧れの先輩がいた
- 俺にはできない仕事をあっさりやる先輩
- 後輩のミスをさらっとカバーする先輩
- 新人を上手に育成する先輩
- お客さんをキラキラの笑顔で接客する先輩
そんな先輩たちは、プライベートもかっこよかったから、なおのこと「あんなふうになりてーなー」と素直に思えた。今でも当時の先輩たちに会うと、ウキウキする。
普通の会社で、こんなふうに思える先輩がどのくらいいるのだろうか?
仕事を楽しもうとしていた
単調な仕事だったからこそかもしれないが、1つ1つの仕事をどうせなら楽しんでしまおうという風潮があった。みんな、面白がっていたように思う。
「見ろ、このピカピカのグリルを!」と言って、肉を焼く鉄板を独自の方法でピッカピカにするやつもいた。
プライベートでもとても仲が良かった
年中、みんなで遊んでいた。この時期、高校の同級生や家族より、バイト仲間と一緒にいた時間が圧倒的に多かったと思う。
今思うと、プライベートでめちゃ仲が良かったから、仕事で言いたいことをストレートに言えたのかもしれない。そして、人間的に好きな人ばかりだったから、自然とフォローしたいなと思えたのかもしれない。
「ありがとう」と言うのが当たり前の環境だった
マックでは「XXプリーズ(XXお願いします、XX作って、XXやって)」「サンキュー」というやりとりが普通。今思うと、かなり不思議なやりとりだが、「サンキュー」が死ぬほど飛び交っていた。
だからなのか、よく分からないが、当時「ありがとう」は自然だった。僕は今でも、「ありがとう」をかなり口に出して言う。
今振り返ると、「ありがとう」と言われたかったし、同じくらい、「ありがとう」と言いたかったように思う。
働きがいは金銭じゃない
このような感じで、当時の僕のバイト先では、普通の企業ではなかなかお目にかかれない状況が当たり前になっていたようだ。
世間では「マックはマニュアルの文化」と思われているかもしれないが、むしろ全く反対だった。最低限のことはマニュアルで統制しているが、それ以外は、何も管理されていない。自分たちで考える世界だった。
最低限のことがマニュアルで統制されているというのは、言い換えると、それさえ守っておけば、何をしてもよいということでもある。
キッチリとマニュアル化されている範囲が明確だからこそ、むしろ自由度が高まったのかもしれない(もっとも、単にフランチャイズ店だったから、いろんなことがゆるゆるだったのかもしれないが)。
ちなみにオーナー兼店長は、ほとんど店には来なかった。たまに来ると、適当な接客をするので、返ってバイトたちから「店長、後ろに下がっててください!」なんて言われていた。今思うと、かなり面白い状況だ。
こうして振り返ってみると、この経験が僕の仕事の原体験になっているのは間違いない。「やっぱり働きがいは金銭じゃない」と確信している。
あのバイトは、間違いなく楽しかった。どこにでもあるマックなのに、働きがいがあった。そんなバイト先も、いろいろあって今はもう、ない。(だから美化されているのかもしれないが。)
自分のチームや会社が、金銭以外の価値観を大事にしていきいきと働けていたら、みんなが自分なりの個性を発揮して、認め合える環境で仕事ができたら、そして、その結果としてたくさん給料がもらえたら――。最高だと思う。
田舎のどこにでもあるようなありふれたマックで、学生が運営しているようなマックで実現できたのだから、今の僕に実現できないわけがない。
著者プロフィール:榊巻亮
コンサルティング会社、ケンブリッジのコンサルタント。一級建築士。ファシリテーションとITを武器に変革プロジェクトを支援しています。
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