“名ばかり働き方改革”は、やらない NSSOLとサーバーワークスの本気(2/3 ページ)
ただ「早く帰れ」というだけの“名ばかり働き方改革”が横行する中、“本質を見誤った改革には意味がない”と、本気の改革を進めているのがNSSOLとサーバーワークスだ。社員のモチベーションを高め、利益に貢献する働き方改革はどうすれば実現できるのか。
働き方改革の評価は定量より定性で
次のトピックは「管理職として部下を幸せにするためにどんな工夫をしているか」。ここで及川氏は、生産性の向上を考える上で不可欠な「評価制度」について2人の考えを聞いた。
岡田氏は、自社の評価制度については道半ばであるとし、「まだ未整備のところが多い。リモートワークが多い社員にも出世のチャンスが公平に与えられるよう、評価制度を確立させるところから変えていかなければならない」と話す。
一方、「真の働き方改革やリモートワークが実現できるかどうかは、人事制度にかかっている」というのが大石氏の考えだ。
「例えば、勤務態度を評価基準にすると、リモートワークをしているだけで評価が下がってしまう。うちのオフィスには昼寝スペースがあるが、『あいつは昼寝していたから駄目』というジャッジをしてしまったのでは改革が進まない。成果で評価することを徹底している」(大石氏)
しかし、「成果をどの観点から評価するかが難しい」という課題もあると大石氏。「最初は定量評価を試みたが、これは間違っていることが分かった。今は定量より定性で評価している。ただ、こうした定性的な評価には時間がかかり、サーバーワークスでは半年に1回の評価にトータルで3カ月くらいの時間をかけている」(同)
重要なのは“正当な評価ができるマネジャーの育成”
働き方改革を推進する上では、“いつ、どこで何時間働こうが、成果が正当に評価される制度”が重要な意味を持つ。なぜなら、それが社員のモチベーションの源泉になるからだ。しかし、それを正しく行うためには、時間も手間も掛かる上、上司と部下の間には信頼関係があることが前提となり、実践のハードルは高い。
モデレーターの及川氏も、「数字ベースで評価を判断する方が簡単なので、その方向に流れやすい。例えば、評価対象がエンジニアの場合、書いたコードの行数で評価しがちだ」と指摘する。
「優秀なエンジニアが書く1行のコードは、凡庸なエンジニアが書く10行分にも匹敵する。そうなると、この1行の成果を見極めて適正に評価できるマネジャーの育成がキーになる」(及川氏)
岡田氏は、正しい評価ができるマネジャーを育成するために、メンター制度を取り入れているという。
「35歳くらいまでの間に強制的にメンターになってもらうが、これにはメンター側の教育という側面もある。メンターは5年後10年後の目標を設定し、それを達成するためにどんなスキルが必要か考える。メンティー側も同じことをして互いに未来像をすり合わせていく。こうして、週1回は必ずコミュニケーションをとるように義務付けている」(岡田氏)
サーバーワークスはマネジャー育成に関するの取り組みも独特で、“新入社員に仕事を教えることを通じて、教える側の成長を促す”方法を採っている。新入社員は1年かけてさまざまな部署を転々とし、課長は新入社員が来るたびに教育の機会ができる。こうした取り組みを通じて、“教えるスキル”が自然と身につくという。
また、評価者会議を開き、「他の評価者がどういう評価をしているのかをディスカッションしながら、評価者のスキルを磨く」という取り組みも行っているそうだ。
「定期的なチャレンジ」でスキルアップ
最後のトピックは「ビジネスパーソンとしてのスキルアップについて」。及川氏は両氏に、自身が成長のためにどんなことを実践してきたか、社員や部下のスキルアップのためにどんな働きかけをしてきたかを聞いた。
大石氏は自身のスキルアップのため、技術やトレンドについて継続的に勉強することと本を読むことの2つを実践しているという。
「IT企業なので、マネジャーも技術についてきちんと理解していないと正しい判断ができない。社内で行われているAWSの勉強会に参加したり、AWSの資格試験を受けたりするなど、AWSやクラウドについては常に勉強している」(大石氏)
岡田氏は、「定期的に新たなチャレンジをすること」を挙げた。
「私はキャリア採用で、30歳前にNSSOLに入った。金融アプリケーション開発の営業に10年ほど携わり、40歳の頃から営業、マーケティング、営業の責任者を歴任した。自分から転機を作ってキャリアを重ねていくことが重要だと思う。それは部下にも言っているし、その機会を与えることを心掛けている」(岡田氏)
キャリアについて考える場合、岡田氏のようにさまざまな部署を回って横軸を広げていくやり方と、1つの領域を深く堀るやり方がある。及川氏がそれについて2人に尋ねると、岡田氏は、「営業についていえることだが」と前置きした上で、「どんなに深堀りしても10年くらいでやりきってしまう。定期的にローテーションを強制することが、その人の多様性を高める。その機会を与えることが重要だと考えている」との見解を示した。
働き方改革は、「個人と会社との関係性改革」――サーバーワークス
大石氏によればサーバーワークスは、働き手となる若者の減少とデジタル・ディスラプションという世の中の流れに対応するため、早い時期から働き方改革に取り組んできたという。
「今までは会社が社員を選ぶ立場だったが、これからは社員が会社を選別する時代になっていく。優秀な人材に来てもらうには、人材と会社との『関係性の改革』が必要と考えている」(大石氏)
「働きやすい会社にする」「働きやすい社会を創る」「それらをIT(クラウド)で実現する」というビジョンを掲げる同社は、クラウドとBYODによって時間や場所にとらわれずに働く「クラウドワークスタイル」を実践しており、こうした働き方を実践する人が増えているそうだ。オフィス内を私語厳禁の集中エリアや、勉強会などを行うコミュニケーションエリアなどに分け、社員が仕事の内容に応じて働く場所を選べるスタイルを導入。こうした取り組みが奏功し、離職率が下がって事業は年率50%の成長を遂げているという。
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