口蹄疫で豚が全滅 ITを駆使してどん底から這い上がった畜産農家の起死回生:データのじかん(3/3 ページ)
ITを積極的に活用した養豚場経営に取り組む宮崎県の畜産農家「協同ファーム」。畜産にIoTを活用し、業務効率化や品質向上を目指す取り組みとは?
スタートした現豚舎での実証実験
タイミング良く、協同ファームでは2018年5月を目標に新豚舎を建設する予定があるため、取り壊し予定の現豚舎でIoTの実証実験を行える。2017年9月時点で、豚の飲み水に使う水源の井戸に流量計とセンサーを設置、養豚場全体で使う水の量を把握できるようになった。さらに加工場の冷凍庫、冷蔵庫に温度センサーを取り付け、庫内の温度変化が時系列で分かるようにもしている。
センサーが取得したデータはBluetoothなどでゲートウェイに集約され、IoT通信向けプラットフォーム「SORACOM」を経由しMotionBoardで集約しモニタリングする仕組みだ。
今後は、協同ファームとシステムフォレストが協議してセンサーを増設しながら、効果的なセンサーの設置場所、し尿からアンモニアが発生する豚舎の厳しい環境下での耐久性などを検証し、新豚舎へのIoT導入へとつなげていく。
協同ファームは新豚舎の建設を契機に、現在の飼育頭数5000頭を倍増する計画を立てている。さらに2020年開催の東京五輪への食材提供、輸出への取り組みに必要な国際基準のGAP(農業生産工程管理)の認証取得も視野に入れる。しかも従業員数は現状のままでだ。
「目標にはいろいろな設備の自動化とそれを監視・連絡するIoTの導入が不可欠」と日高社長は力を込める。新豚舎には、飼料タンクの重量管理、空調システム、公害防止のための脱臭装置、堆肥をつくるための発酵装置などの稼働管理のためにもIoTを導入する考えだ。
ITによる養豚の効率化、職場環境改善に厚い期待
宮崎県の畜産といえば地鶏と肉牛が有名だ。豚の飼育頭数も84万6700頭で鹿児島県に次ぐ全国2位の産地(2017年畜産統計)なのだが認知度は低い。その宮崎産ポークを消費者に浸透させようと、県とJA宮崎経済連はまるみ豚などを「宮崎ブランドポーク」として選定、PRに力を入れている。
一方で、宮崎県畜産振興課は養豚業界共通の課題として「人手不足」を挙げる。求人しても集まらないし、働いてもすぐ辞めてしまうというのだ。
「働き手が気持ち良い環境で長く働いてもらうことが必要。養豚農家のITによる効率化、職場環境改善がほとんど進んでないなか、協同ファームの取り組みはとても興味深い。それを農家の利益にいかにつなげられるかに注目している」と同課酪農・中小家畜振興担当の川北正昭主査は評価する。一方で、日高社長も「誰かが新しいことをやるのを、他の養豚家たちはじっと見ている」と話す。
行政や同業者が注目するのもうなずける。この取材を通して、協同ファームにおけるより安全・安心な「豚」に対する取り組み、高い意識と新しいテクノロジーに対する表面的ではない、深い理解を目の当たりにした。そして何より、協同ファームの従業員は総じて笑顔で明るく仕事をしており、同時にスタッフの仕事に対する「誇りと自信」という強さもヒシヒシと感じた。
また国内の養豚業にとっては自由化を見据えた欧州連合とのEPA(経済連携協定)交渉、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉の先行きも不透明であり、いかに国際競争力のある豚肉を育てるかと、懸念材料も少なくはない。協同ファームの取り組みが、宮崎県、日本の養豚・畜産の新たなブレークスルーとなるのかを、これからも注目していきたい。
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