IBM Cloudが“コスト削減とイノベーションの準備を両立できる”理由:Weekly Memo(2/2 ページ)
日本IBMが2018年のクラウド事業戦略を明らかにした。筆者が注目したのは、これまでにも増して「既存システムのクラウド化」を強調したことだ。その狙いはどこにあるのか。
既存システムのクラウド化はイノベーションの前準備
では、IBM Cloudはなぜ、既存システムをそのままクラウドに移行することができるのか。三澤氏はその例として、IBMが提供するベアメタルによってVMwareの環境を変更することなく、クラウド上で稼働できる「VMware on IBM Cloud」を挙げた。
図2に示したのが、VMware on IBM Cloudの内容と特徴である。同氏がVMware環境を取り上げたのは、既存システムにVMware環境が適用されているケースが多いからだ。そして、このVMware環境をそのままクラウドに移行できるのは、現時点でIBM Cloudだけであることを強調していた。
一方、クラウドネイティブなアプローチの推進については、図3に示したように、「ワークロードの最適な実行環境を選択できることで、ビジネス要件に素早く対応できる」のがIBM Cloudならではのポイントだ。図3においてクラウドネイティブなアプローチは、緑の枠で囲まれたところになる。
三澤氏はさらに、IBM Cloudの特徴として、「オープンスタンダード技術に基づいていること」「デプロイメントモデルの選択肢を提供していること」を挙げた。同氏によると、マイクロサービスやコンテナ化においてオープンスタンダード技術を適用しているのは、「エコシステムが作りやすい」「ハイブリッドデザインが描きやすい」「ベンダーロックインを回避できる」といったメリットがあるからだ。
IBM Cloudのデプロイメントモデルの選択肢については、図4に示したように、右側のパブリッククラウドだけではなく、デデュケイテッドクラウド、プライベートクラウドを用意。特にパブリッククラウドの空間を個々の企業に割り当てるデデュケイテッドクラウドは、従来のホステッドプライベートクラウドに相当するサービスだが、同氏によると「個別割り当ての度合いを一段と深化させている」とのことだ。
あらためて、今回の日本IBMのクラウド事業戦略を聞いていて印象深かったのは、「既存システムのクラウド化」への支援を強調していたことだ。その潜在需要が大きいのと、IBM Cloudが最適な受け皿になり得るからだが、ユーザー企業の立場からすると、既存システムのクラウド化はイノベーションへの取り組みではなく、コスト削減策としての色合いが濃い。同時にイノベーションを起こしていくためには、クラウドネイティブなアプローチも並行して推進していく必要がある。会見後にこの点を三澤氏に聞いてみたところ、次のようなコメントが返ってきた。
「一般企業では既存システムのクラウド化によって、まずコスト削減を図りたいというニーズが高い。イノベーションに取り組むための前準備と考えればよいのではないか。ただ、イノベーションに向けてはスピードも重要なので、クラウドネイティブなアプローチも並行して推進するのが望ましい」
会見の質疑応答で、2018年におけるクラウド事業の目指す姿を問われた同氏は、「日本市場においてAmazonやMicrosoftとともにトップ集団で名前が出てくるようにがんばっていきたい」とも語った。果たして、これまでにも増して勢いをつけることができるか。「ビジネスのためのクラウド」戦略が奏効するか、注目しておきたい。
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