日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション――フジテックCIO友岡賢二氏:長谷川秀樹のIT酒場放浪記(4/4 ページ)
「セカエレ」(世界のエレベータ・エスカレータ)を標榜し、日本から世界にビジネスを展開するフジテック 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏が語る、これからの日本企業に求められるCIOの役割や情シスの価値とは?
社内に2割いるイノベーターの要望を受け止めろ
長谷川: 友岡さんの中で、「妥協しなければいけないこともあるよね」という部分と、「あるべき理想に従って行動できるところ」は、だいたい何対何くらいですか?
友岡: いくらチャレンジとかイノベーションとかいっても、本質的には人間は変わることを望んでないんですよ。だから新しいところが多すぎるとみんなついていかない。希望としては6対4になればいいけど、実態としては旧態依然としているのが8で新しいのが2ぐらいかもしれませんね。
長谷川: 面白いですね。エンジニアって、業務のことがどれだけ分かっているかは別として、あるべき論を好きな人が多いと思うんです。それでも理想的にやっていけるのは2割程度だよ、ということですか。
友岡: 「ニッパチの法則」っていってますが、だいたい企業って2割の人がとがったことをやっていて、6割のフォロワーがいて、あとの2割は何やっても反対するような人たちなんですよ。僕は、企業の中のとがった感覚を持った2割の人たちがハイパフォーマーなので、そこに着目した方がいいと言ってるんです。仕事の総量じゃなくてね。2割のハイパフォーマーに響くものをやっていけばいいんじゃないかと。
長谷川: イノベーティブな人っていうのはだいたい2割ぐらいだろうと。その人たちの言う案件とかシステム改善とかをやるのがいいんじゃないかと、そういうことですね?
友岡: そう。マーケティングの世界では、イノベーターとアーリーアダプターが16%いて、それを超えたらキャズム超えっていいますね。いわゆるキャズムでいうところのイノベーターとアーリーアダプターに相当する人たちがユーザー部門にもいるんですよ。その人たちに響くことをやって、16%、つまり約2割いけばあとは自然に流れていくんです。逆に、その2割をしっかり受け止めないと、情シス部門に頼んでもダメだというので、ハイパフォーマーの人はシャドーITにいっちゃうわけですよね。
長谷川: 情シス部門としては、その2割の人を見つけて、彼らが言うことを理解して、それを実現する能力というのが必要だと。
友岡: そうです。そういう人たちに提案して、彼らが満足できるアプリケーションを提供する。会社として提供できるものがなければ、彼らが使っているものを「俺が認めてあげるから使いなさい」と許可するね。
AI時代の情シスの役割
長谷川: 今までの情シスだと、SIerの持ってくるものを比較し、導入して、生産性の違いといっても2倍、3倍の世界だったのが、AIが本当に使われるようになってきたら、100万倍、1000万倍の生産性を実現するものを自社に導入できるかという話になってくるんじゃないですか。そうなると、情シスの目利き力の差が相当出てきますよね。
友岡: そうなんですよ。もともと情シス部門は経理部門の一部として伝票処理の効率化みたいなことをやっていたところから始まっているわけですけど、今は全く潮目が変わっているんですよね。IoTとか、オペレーションテクノロジーの世界とかにも入っていかないといけなくて、1人でカバーするのは無理になってきています。
そうすると、本当に狭いところの専門家をどう活用していくかっていうのが、すごく重要になってきますよね。“羊飼い”みたいな世界です。いろんな羊がいるところで、「こっち、こっち」って言いながら方向感をいかに出せるか、どれだけ多くの羊が飼えるか、みたいなね。すごく面白いけども、すごく難しい時代になってきてますね。
長谷川: もうSIerに業界動向なんかを聞いている場合ではなくて、自分たちの会社のことは自分たちで決めるということですよね。
友岡: これからの情シスの本質的な価値は、SaaSで全く手がかからないようなもの、コストが安いものをどれだけ早く取り入れられるかという、目利きと意思決定をするところにあると思うんです。Googleの「G Suite」を使うのにエンジニアはいらないですよね。だから僕は、目指すところはエンジニアレスだと思っています。そう簡単にはなくならないですけどね。汎用化されたものを除いたごく狭いコアの部分は、自分たちで作るでしょうし。
長谷川: エンジニアの一部は、目利きマンにジョブチェンジがあるかもしれませんね。
友岡: そうです。だから、アーキテクト思考というのはすごく重要で。事業会社においては、やっぱり事業に片足を突っ込んどかないといけません。エンジニアの方だけに両足突っ込んでいる人っていうのは、事業に使えるかどうかの目利きができないですから。かといって、マーケティング担当のちょっとITに詳しい人が全部分かるかというと、そうでもない。
最後はやっぱり、自分のところの事業に対する愛情とか愛着とか、「この事業を他よりも勝たせないかん」みたいな思いがすごく重要だと思います。その事業に対して誰にも負けない愛情を持っている人が、一番強いんです。ただ、これも1人の人間に全てを求めるのは無理なので、やっぱり役割分担ですね。組織の長がやるべきなのは、オーケストレーションです。自分だけで全部の楽器を演奏できないから、一人ひとりの特徴を生かしながら、全体としてそういうことができたらいいっていうふうに思います。
長谷川: これからも、挑戦する情シスを増やしていくために、頑張っていきましょう。今日はありがとうございました!
フジテック常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏プロフィール
1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部の部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。
ハンズラボ CEO 長谷川秀樹氏プロフィール
1994年、アクセンチュア株式会社に入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、株式会社東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebook、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年、同社、執行役員に昇進。2013年、ハンズラボを立ち上げ、代表取締役社長に就任。(東急ハンズの執行役員と兼任AWSの企業向けユーザー会(E-JAWS)のコミッティーメンバーでもある。
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