データの前に「人」をつなげよ――ホンダのDXを進める“データコンシェルジュ”の流儀:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(3/3 ページ)
自動車のスマート化により、ユーザーニーズが激変している今、業界全体でデータ活用の重要性が高まってきている。本田技術研究所で進む「ビッグデータプロジェクト」のメンバーである中川さんは、データと同時に、人をつなぐプロフェッショナルでもあった。
分断してしまったデータと組織をつなぐ「データコンシェルジュ」
中川さんが考えるデータコンシェルジュというのは、企業全体でのデータ分析活動を円滑にするための役割だ。データの在りかを知るところから、その使用許可を取ったり、データの成り立ちなどを把握したり、データを一覧できるプラットフォームを構築したりといった支援を行う。「端的にいえば、データと人をつなげる」ことだと中川さんは話す。
「データの意味を理解し、どのようにやりたいことにつなげるかを考えないといけません。しかし、大企業の場合、データサイエンティストと現場やビジネスは分断されていることが多い。だからこそ“コンシェルジュ”が必要なのです」(中川さん)
データ活用で技術研究を加速させるため、今後はデータコンシェルジュを育てていきたいというホンダ。社内では冗談交じりに「中川京香をシステム化せよ」と言われることもあるそうだ。
そのためには、まずはデータの在りかをルール化し、さまざまな人間が自由にアクセスできるようにしなければならない。その上で、データを使いたい人とデータを提供する人が協力できるようにつなげる活動も必要だ。とはいえ、これらは一朝一夕で実現するような話ではない。特に、後者ができるようになる人材を育成するのは時間がかかるだろう。
さらに今後は社内だけではなく、社外との“共創”というデータ連携も待っている。自動車はハードウェアの開発期間が5〜7年と長く、開発当初と製品リリース時でITを取り巻く環境が大きく変わっているケースも多いという。その時々で、ソフトウェア面を任せられる適切なパートナーと組めなければ、最新のITに追従するのは難しい。そういう観点でも、データコンシェルジュのような役割はさらに重要になるはずだ。
クルマの使われ方をデータ化し、顧客の“本当の姿”を知る。地道な取り組みかもしれないが、これがなければユーザーが求めているモノを作ることなどできない。100年に一度の大変革期を乗り越える――これからもホンダの挑戦は続いていく。
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