改革に成功するリーダーと失敗するリーダーはどこが違うのか “きれいごとですまない仕事”をやり遂げるために:CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(1/3 ページ)
フジテックCIOの友岡氏とクックパッド情シス部長、中野氏の対談最終回。今回は「改革に成功するリーダーと失敗するリーダーの違い」というテーマで話が進んだ。
この対談は
クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。
今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。
フジテック 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二氏プロフィール
1989年松下電器産業(現パナソニック)入社。独英米に計12年間駐在。ファーストリテイリング業務情報システム部の部長を経て、2014年フジテックに入社。一貫して日本企業のグローバル化を支えるIT構築に従事。
クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 中野仁氏プロフィール
国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤をシンプルに構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを立ち上げ代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。
「日本にCIOという職業を確立させる、それが私のミッション」――。その言葉通り、日本全国津々浦々の“お座敷”で講演を行い、CIOの必要性を説いているのがフジテックのCIO、友岡賢二氏だ。CIOが果たすべき役割とは何か、選ばれるためにはどんな経験や考え方が必要なのか――。
前回のテーマ「変革の大敵、抵抗勢力を巻き込む方法」に続いて、今回は「改革に成功するリーダーと失敗するリーダーの違い」というテーマで話が進んだ。
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中央集権とボトムアップのバランスをいかに取るか?
友岡 変化の時代に対応できるシステムをつくっていくためには、例えば受発注のような実際のビジネスのオペレーションの部分まで、システム部門がまとめて面倒見てしまうというのも1つの手です。マスターデータの管理から、それこそ最後のオペレーションの実行のところまでをまとめてやってしまう。小さな組織なら、そういう組織モデルもありだと思います。
中野 なるほど。ただ実際には、組織が大きくなってくるとやっぱり回らなくなってきますし、ボトルネックが目立ってきますよね。
友岡 そうですね。組織が大きくなるとそういう方法は無理なので、ある程度機能を分散する必要があります。
中野 1つの部門で全ての面倒を見るパターナリズムには、遅かれ早かれ限界が来ます。大抵の場合は社員数が1000人を超えたあたりだと思いますが、そうなると今度は分権を考えていかなくてはなりません。
ただ、個人的には、早い段階で一度、「集約や統合をしておくべき」だと思っています。そうしないと基本形ができないので、標準化の話ができなくなる。早い段階から分散して、そのまま仕組み化せずに組織だけが急激に肥大化するのが一番の悪手だと思っていて、小さな会社こそ中央集権であるべきだと思っています。小さい方が傷が浅くて、直しやすい。
友岡 まあ、そうですよね。戦線が伸び切ってリソースが分散してしまうと、やっぱり勝てないですからね。
中野 今回もシステムを入れる際に意識したのは、プラットフォームの統一だったんですね。それはなぜかというと、われわれのエンジニアリングリソースには限りがあります。
昨今、優秀なエンジニアを採用するのはとても難しい。頭数をそろえるだけならどうにかなりますが、質の高い人材を採るとなると、本当に大変なんですね。つまり、限られた人員で広大な領域をカバーしなければならないわけです。そうなると、自ずと戦線拡大と戦力分散は自重しなければならない。プラットフォームの集約は、そのための施策の一環なのです。
システム統合の5並列プロジェクトで参考にしたような北米系Webサービス企業は、われわれの10倍、下手をすると100倍ぐらいの規模があるのですが、よくよく話を聞くと、まだ企業規模が小さかった時から既に、今回、私たちが構築したようなシステム構成にしていたらしいんですね。
もちろん、現在は大企業になっていて、われわれよりも圧倒的にお金も人もあるはずなんですけれども、それでもそのぐらいシンプルなシステム構成にしているということは、多分、われわれはもっとしぼりこまなければいけない。むしろ、そうした企業は“急拡大する前に仕組みを作り込んだ”からこそ、その後スケールできたのではないかと考えています。早い段階で備えていたから、急拡大して海外に戦線を伸ばしても崩壊しなかったのではないかなと。
友岡 なるほど。その点についてはまったく同意ですね。そのシンプルさをどこまで維持できるかというのが、まさにガバナンスの在り方だと思うんですね。
中野 全体の方向性を皆にきちんと納得してもらい、合意形成を取りつつ進める――。そういうボトムアップ的アプローチはできる限りやる。皆で膝を突き合わせて話してみると、「そうだね」という話になったりはするんです。でも、そういうやり方は時間がかかります。だから、時間的な制約のことを考慮すると、やっぱり中央集権にならざるを得ない。従って、中央集権と合意形成のバランスをいかに取るかというのが難しいところです。
友岡 そこで決めたバランスが「最終的には皆のためになる」と思っている人が、全体の51%以上いるかどうかということですね。
中野 やっぱりユーザーからしてみると、UIが使いやすくて簡単なものがいいんですよ。自分たちが気に入ったシステムを入れて、自分たちに合うプロセスで業務を進めたい。でも、それをやり続けると、あっちこっちに小さなシステムが乱立する“分断と分散の世界”に戻ってしまう。マスターデータはバラバラで、プロセスもシステムごとに分断される複雑化した世界です。
システムの切れ目はプロセスの切れ目であり、それが組織の分断につながってしまう。その結果が「労働集約制の高い業務の増加と、それによる組織の疲弊」なわけですから、それだけは絶対に許容できない。
ただし、それをERPみたいなものでグローバルに統一すると、どうしても個別業務には最適化していないので、現場のユーザーからしてみると使いづらい面がある。このあたりのギャップやジレンマをどう埋めていけばいいのか――というのは、本当に難しい問題ですね。
正直に言うと、今回のシステム刷新プロジェクトでは、ユーザビリティの優先度を下げたんです。そうしないとマスターを統合できなかったのと、スケジュールに間に合いそうになかったので。もちろんそれなりに非難ごうごうなんですけど、それでもやっぱりやらないといけない。
友岡 それは道筋としては、間違っていないと思います。そもそも「ユーザビリティについて議論する必要があるのか」という本質的な問題もありますしね。
中野 でもそれを言うと、皆、怒ってしまうので(笑)。
友岡 そうですね。でも、そういう本音が出そうになるのをぐっとこらえながら、「ごめんね〜」「いやぁ、僕も腹立つんですよ。ホント、その通りですよね〜」といった具合に、まずは相手の言い分を受け入れる。向こうだって何ともならないのは分かっていて、ただ自分の主張を聞いてほしいだけなんですよね。答なんて求めていない。そういう“出口がない話”が出たときに大事になってくるのが、「愛嬌」なんですね。「愛嬌力」で乗り切るわけです。
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