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44.1%の企業がDXのPoCフェーズ、日本企業は「DX夜明け前」なのか?IT革命 2.0〜DX動向調査からインサイトを探る

デジタルトランスフォーメーション(DX)の言葉が世に出てから6年ほどたちます。共通な認識を持つことが難しいこの言葉ですが、実際に従業員1000人以上の企業について実態を調査したところ、予想以上に変化の兆しが見えてきました。

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 企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について、他の企業がどのような動きをしているかは、普段あまり気にするものではないものかもしれません。もとより自社のビジネス競争力は上げるものであり、来るべき市場を根本的に変えるディスラプター企業の来襲を想定して磨き続けるものとも言えます。

 ただ「秋深き隣は何をする人ぞ」「隣の芝生は青い」などというように、隣の会社の中で何が行われているかは気になってしまうことがあると思います。日本人的な組織の特徴の一つとされる「先例主義」や「横並び主義」など周囲への過剰な同調が心の奥底に潜んでいることも否定できないでしょう。

 筆者自身も、まさに企業のDXは、この両方の気持ちが揺れ動いている状況ではないかと感ています。今回、私たちはその想定をもって、日本企業のDXに関する意識を調査しています。

 今回は連載の機会をいただきましたので、「DXの定義」や「こうあるべき」などを述べるのではなく、調査のレポートの結果詳細からそのインサイトを探り、報告していきたいと考えています。第1回の今回は、日本企業においてどの程度DX機運が高まっているか、あるいは高まっていないかを明らかにしていきます。

筆者紹介:清水 博(しみず ひろし)

デル株式会社 執行役員 戦略担当


 早稲田大学、オクラホマ市大学でMBA(経営学修士)修了。

 横河ヒューレット・パッカード入社後、日本ヒューレット・パッカードに約20年間在籍し、国内と海外(シンガポール、タイ、フランス、本社出向)においてセールス&マーケティング業務に携わり、アジア太平洋本部のダイレクターを歴任する。2015年、デルに入社。パートナーの立ち上げに関わるマーケティングを手掛けた後、日本法人として全社のマーケティングを統括。中堅企業をターゲットにしたビジネス統括し、グローバルナンバーワン部門として表彰される。アジア太平洋地区管理職でトップ1%のエクセレンスリーダーに選出される。産学連携活動としてリカレント教育を実施し、近畿大学とCIO養成講座、関西学院とミニMBAコースを主宰する。

 著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)がある。Amazonの「IT・情報社会」カテゴリーでベストセラー。この他、ZDNet Japanで「ひとり情シスの本当のところ」を連載。ハフポストでブログ連載中。


・Twitter: 清水 博(情報産業)@Hiroshi_Dell

・Facebook:Dx動向調査&ひとり情シス

約半数の企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の評価期

 今回の調査で最もエキサイティングなトピックは「44.1%の企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の評価期に入っている」という結果にあります。約半数の企業は着実に準備期間に入っており、本格的なDX展開に向けて、PoC(概念検証)を実施している姿が浮き彫りになったのです。

DX評価期に入った企業は全体の44.1%
図1 DX評価期に入った企業は全体の44.1%《クリックで拡大》(出典:デルテクノロジーズ「DX動向調査」)

速報を冊子化したもの

 今回、PowerEdgeに代表されるサーバ製品を担当するDell Technologies(デル) インフラストラクチャ・ソリューションズ統括本部 データセンターコンピューティング部門は、日本企業を対象に「DX動向調査」を実施しました(調査期間:2019年12月1〜31日、調査対象:従業員数1000人以上の企業、調査方法:オンラインアンケート、有効回答数:479件)。従業員1000人を超える日本国内の企業4383社を対象に調査を実施し、そのうちの約11%に相当する479社からの回答を得ました。企業数でみると、日本国内の企業数の0.3%に過ぎませんが、国内雇用者数の3分の1を占めるのが、この従業員1000人を超える企業です。この意味において、日本経済の屋台骨であるリーディングカンパニーといえるでしょう。なお、この集計結果の第一弾である速報は2020年3月6日に発表しています。

 当初、どこまで役立つ結果が得られるのかという気持ちの中で調査を始めました。しかし、結果を見てみると、「事前に知っていたら陥りやすい課題も避けることができたのでは?」と思うようなものも数多くありました。これは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める方にとって有益な情報であると感じます。少しでもお役に立てれば幸いです。

 「サーバ製品部門がなぜ企業のDX動向を調査?」といぶかしがる方がいらっしゃるかもしれません。DXを支える「デジタル」の基礎は、まぎれもなくITインフラが担います。実務としてのDXの活動がどの程度進展しているのか、1000人を超える日本企業がデジタル変革度をどう受け止めているか、市場のニーズをしっかり把握したかったのです。DXが積極的に進められている大手企業の状況を調査するのが目的でした。

「デジタル導入企業」直前層の拡大傾向が「DXの取り組み指標」で明らかに

 「自社でDXがどこまで進んでいるのか分からない」と不安げに悩む声をお客さまからたびたび聞きます。現在、DX化の取り組みや進捗(しんちょく)状況を表す尺度は、さまざまな企業で発表されてきました。一般的にDX化の指標は、DXに全く対応していない状態から段階的な部門推進レベルを経て、完全にDX化を企業戦略の中枢にするまでのプロセスを表すものになっています。

 また、経済産業省も2019年7月には、「DX推進指標」のガイダンスの中で、レベル0からレベル5までの6段階で定性指標を策定しました。それによると、レベル0は「未着手」、レベル1「一部での散発的実施」、レベル2「一部での戦略的実施」、レベル3「全社戦略に基づく部門横断的推進」、レベル4「全社戦略に基づく持続的実施」、レベル5「グローバル市場におけるデジタル企業」となっています。自社のポジショニングを検討する機運が増えてくるものと思えます。

 この「DX推進指標」とほぼ同じ進捗調査で、過去2回デルテクノロジーズが全世界で実施した尺度があります。この指標を用いてDX動向調査を実施しました。デルが実施した尺度は次の5段階に分けられています。

  1. デジタルリーダー(Digital Leaders)は、デジタルトランスフォーメーションが自社DNAに組み込まれている企業のことであり、最もDXが進んでいる企業です
  2. デジタル導入企業(Digital Adopters)は、成熟したデジタルプラン、投資、イノベーションを確立している企業のことです
  3. デジタル評価企業(Digital Evaluators)は、デジタルトランスフォーメーションを徐々に採り入れ、将来に向けたプランを策定している段階の企業です
  4. デジタル フォロワー(Digital Followers)は、デジタルへの投資はほとんど行っておらず、取りあえず将来に向けたプラン策定に手を着けた企業です
  5. デジタル後進企業(Digital Laggards)は、デジタルプランがなく、イニシアチブや投資も限定されている企業です

 なお直近では2018年の8月にグローバルで調査した際のレポートも「DELL TECHNOLOGIESデジタル トランスフォーメーション インデックスII」(PDF)として参照できるようになっています。各国の調査を見ることができ、とても興味深い内容になっています。

DX評価期に入った企業は全体の44.1%
図2 DX評価期に入った企業は全体の44.1%《クリックで拡大》

 さて、私たちが今回実施した調査では、44.1%の企業が「デジタル評価企業」の段階にありました。規模や進捗の違いはあるものの、何かしらの「PoC」を実施していることが分かります。つまり、約半分の企業がこのフェーズであり、いよいよ次のフェーズである「デジタル導入企業」への準備が整いつつあると考えられます。

 実をいうと、2019年末にこのアンケートの締め切りがあり、正月明けの集計作業を待ちきれず、休暇中に集計していた私はこの結果にとても興奮しました。この結果を見て、2020年は変化の年であると確信しました。

「夜明けの光」はいつ日本を照らす? グローバル平均との遅れ

 パール・バックの『大地』に次のような一文があります。

やがて、夜明けの光が霧の中から彼の土地を赤々と照らした(In spite of the dark red dawn the sun was mounting the horizon clouds and sparkled upon the dew on the rising wheat and barley.)

 集計結果を見て、このような景色が想像できました。

 しかし、同時に厳しい現実も見ることになりました。DX戦略を既に行っているデジタル推進企業である(1)デジタルリーダーと(2)デジタル導入企業は少数でした。DXが自社の戦略や組織のDNAレベルまで組み込まれているデジタルリーダーだと認識している企業は、わすが2.9%(グローバル平均5%)です。さらに憂慮すべき点としては、その次のフェーズであるデジタル導入企業もわずか6.1%(グローバル平均23%)です。デジタル化を推進していると自認している(1)と(2)は合わせても9%(グローバル平均28%)に過ぎません。

 デジタル評価企業に44.1%いるのを喜ぶ半面、デジタル導入企業には越えられない壁があるのかとも感じられます。あと1〜2年で進む可能性も十分あると思いますが、デジタル化を推進している企業のグローバル平均が28%であるのに対して現状はわずか9%です。現時点では残念ながらグローバルに遅れていると言わざるをえません。

売上1000億円以上、従業員3000人以上がDX進捗の明暗を分ける

 今回の調査は従業員1000人以上の日本企業を対象にしていますが、この中をさらに細かく分析していきました。売上高が、300憶〜1000億円、1000億〜3000億円、3000億〜1兆円、1兆円以上、従業員が1000〜3000人、3000〜5000人、5000〜1万人、1万人以上で分類して調査しました。その結果、売上高や従業員数とDX進捗との関連が明確に見えてきました。

売上高
売上高《クリックで拡大》

 ピンク色にハイライトしている部分が平均より大きく超えている部分です。売上高が1000億円以上の企業ではデジタルリーダーが5.1%と平均より2.2ポイント上回っており、デジタル導入企業もほぼ倍の11.9%です。デジタル評価企業についても55.1%となり、企業規模の経済性が現れている可能性を感じました。さらに従業員規模でも、3000人以上を境に大きく進捗度合いが変わっています。

 別の機会に報告しますが、DX化には人的リソースがとてもクリティカルであるという結果も集まっています。特にIT人材不足が進む現在では、DX化に向けて新しい検証をするITスタッフを集める攻めの姿勢ではなく、従来のシステムの運用を行うITスタッフも確保しつづける守りの姿も浮き彫りになりました。

 予算についても同様なことと思います。大きな企業が有利という規模の経済性を問うことだけでは、生産的な議論にはならないかもしれません。しかし、従来のITと新たなDX化は同時進行ことですので、リソースや予算消化量が増えることは避けられないことです。事前にこのことを意識しても同じような結果を避けることはできないかもしれませんが、DXはそれなりに大掛かりな取り組みであることを改めて感じるものでした。

 今回は日本企業のDXの進捗度合いを、デルがグローバル標準で利用する指標を使って評価してみました。多くの企業が「夜明け」直前のステージにあることがお分かりいただけたのではないかと思います。次回は、DXについてIT部門や企画部門だけでなく「組織」全体がどう認知し、期待しているのかを見ていきます。

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