国内パブリッククラウド市場“急成長”は本当か? AWSやAzureも利用のデータセンター、日本に巨額投資の背景は:新設の専用データセンターも「ほぼ満床」
日本のパブリッククラウド市場が急成長の局面を迎えている。データセンターを手掛けるエクイニクスは新たに大規模ベンダー向けの拠点を新設したが、現時点で既にスペースは満床だという。その背景に何があるのか。国内におけるニーズの変化や各ベンダーの動きから読み解く。
「Amazon Web Services」(AWS)や「Microsoft Azure」(Azure)、「Google Cloud Platform」(GCP)といった、大規模なベンダーが手掛けるパブリッククラウドのニーズが日本で伸び続けている。こうしたベンダーのニーズに応えようと、大規模なデータセンター(DC)が東京や大阪に開設される動きも出てきた。コロナ禍に影響を受けたテレワークや事業体制の見直しなどでクラウド利用が拡大する中、こうしたニーズの勢いは実際にどれほどのものなのか。DC事業者やベンダーによる最近の動きや調査の結果から読み解く。
大規模ベンダー専用のデータセンター 新設もスペースは予約で満杯
法人向けデータセンター事業を手掛けるEquinixは2021年3月10日、同社が「ハイパースケーラー」と呼ぶ大規模クラウドベンダー専用のデータセンター「xScale」の日本初拠点「TY12x」を千葉県印西市に開設した。エクイニクス・ジャパンの小川 久仁子氏(代表取締役社長)は、「ハイパースケーラーの要望を細かく聞き、ニーズに応える戦略を進める」と話した。
TY12xは初期フェーズで960ラック分のスペースと8MWの電力を供給し、最終的には約6500ラック分、54MWまで拡大する予定だ。現在出来上がっているスペースは「顧客からの注文でほぼ“満床”の状態だ」(小川氏)。
同社は企業向けデータセンター「IBX」を東京や大阪に10拠点以上展開するが、xScaleはハイパースケーラーに合わせたリージョン単位で展開する。仕様もIBXとは供給電力から提供単位まで完全に別物だ。ラックやケージ単位ではなく「データホール」と呼ばれる大型の部屋単位でスペースを提供し、1ラック当たりの供給電力は、IBXの2倍となる8KWだ。TY12xの場合、1部屋のデータホールは2MWの電力供給力の他、壁一面と天井を使った空調型(水冷式および空冷式)の冷却装置を備える。無停止電源装置(UPS)やディーゼル方式の非常用電源装置の他、48時間分の備蓄燃料も完備する。
TY12xの空調機械室の様子(左)。サーバから放出された熱を天井から吸収し、水冷コイルを使った冷却ファンが設置されたユニットに送り込んでからデータホールに循環させるという。屋上には空冷ユニット(チラー)を設置する(右)(画像提供:エクイニクス・ジャパン)
xScaleは、仕様だけでなく、提供の仕方にもハイパースケーラーのニーズを反映する。IBXはサーバ用の空間や電力だけでなく、複数の拠点間接続サービスもパッケージ型で提供するが、xScaleは空間と電力のみを提供し、代わりにデータホールの細かいカスタマイズが可能だ。TY12xの場合、顧客はサーバの配置に合わせて天井のパネルを動かすことで空冷を最適化できる他、従業員を常駐させたい顧客にはオフィス空間や会議室を提供する。
TY12xのデータホールの様子。床はコンクリート塗装で、下のスラブから上のスラブまでの間が6メートル。下のスラブから天井までが4.1メートル。床の荷重は1平方メートル当たり1250キロ/12.5KN(キロニュートン)。大規模な空間を冷やすため、右側の壁一面にファンコイルユニット(ファンウォール)を設置する。(出典:エクイニクス・ジャパン)
Equinixは現在、世界各地でxScaleの建設を進め、30億ドル(約3200億円)を投資する。小川氏によれば、AWSやAzure、Google Cloud、Oracleの持つクラウド拠点の4割以上をEquinixのデータセンターが占める。同社が進める10件のxScale建設計画のうち、3件あるアジア太平洋地域の拠点はいずれも日本だ。今回開設したTY12xの他、2021年10月には大阪に「OS2x」を、さらに東京に2拠点目を建設する計画が進む。国内のxScale事業には、併せて10億ドル相当を投資する計画だ。
主要クラウドベンダー拠点におけるデータセンター事業者の内訳。AWSの拠点の4割、AzureやOracle Cloudに至っては拠点のほぼ5割をEquinixのデータセンターが占める(出典:エクイニクス・ジャパン)
「特に東京におけるxScaleのニーズは(アジア太平洋地域の中でも)圧倒的に大きい。クラウドシフトの伸び率は高く、ハイパースケーラーの要望をどんどん投げてもらっている状態だ」(小川氏)
急成長のパブリッククラウド需要 調査やベンダーの動きに見る、急成長の理由
国内のパブリッククラウド市場のニーズは、実際どれほどの勢いで成長しているのか。全国規模の調査や各ベンダーの動きからは、コロナ禍以前から数年かけて進んだ市場の変化が見て取れる。
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