「ぼられている」と感じさせない値付けのロジックはどう組むか〜考え方と採算管理の実践方法:データで導くプライシングの技術(3)(2/2 ページ)
愛用品の部品交換に来た顧客から「ぼられている」と疑いの目を向けられるのは値付けロジックが正しく機能していないからかもしれない。常時変化する市場の状況に対応しながら関係者との合意をうまく取り付けるための値付けと採算管理の関係を見ていく。
価格決定の理論と交渉ロジックから見た採算管理実践のすすめ
本稿で題材にする自動車部品関連の事業体の場合、価格ポリシーの中に「最低粗利チェック」のロジックを含むのが一般的です。そのため、価格管理において「継続的な採算管理は不要ではないか」との指摘を受けることがあります。しかし筆者らPwC Japan(以下、PwC)は、定期モニタリングを含む採算管理は極めて重要と考えています。
OEMメーカーの視点から見ると、新車販売に伴う新設部品の価格設定期間(新車販売の2カ月程前が期限)に購入価格(OEMメーカーにとってのコスト)が決まっていないケースが全体の2〜4割程はあるという認識です。つまり、価格設定は何らかの別のロジックで仮原価を算出するしかありません。ただし、仮原価と購入価格にかなりの差異が発生することもまれではなく、原材料の価格変動などで期中に購入価格が変化する場合もあります。
一方、部品サプライヤーの視点から見ると、販売価格(OEMメーカーにとってのコスト)の初期提示をより早く、より正確にすることがOEMメーカーなどの顧客向け交渉に有利な条件になり得ます。
いずれも、コスト変動や不採算をリアルタイムにモニタリングし、価格の初期設定や次回の改定といったアクションにつなげることが肝心であり、追加利益獲得の効果は大きいといえます。そのためには、採算管理の仕組みやツールが不可欠です。
ITおよびデジタル観点で求められる役割・業務機能
価格を決める仕様(価格ドライバー)ごとの係数や基準価格などは「ベース部品を決めて演繹的に積み上げる方式」や「現状価格を前提とした回帰分析に基づく係数を作り込む方式」が考えらえます。加えてOEMメーカーの現状価格の精度と手持ちデータに依存するものの「いずれの方式にも対応できるITソリューション」を採用するといったサポート機能が必要です。
また、たとえ「顧客視点による価格ドライバーの絞り込み」を実施して、部品ごとに必要な仕様情報の低減を達成しても、図面などから情報を取得する工数は依然として無視できないため、設計情報などを自動的に取り込む機能が求められます。
さらに、ベンチマークデータで必要な数を全て収集することは困難なため、外部システムからデータを自動的に取得したり、必要最低限の情報からベンチマークデータの推定値を導き出すロジックを検討したり、限られたデータで価格設定を自動化したりといった機能も活用したいところです。
BPR込みで価格決定ロジックを取り入れる方法を考える
価格決定の領域に限った話ではありませんが、ITソリューションを導入する際は、現状の業務内容やフロー、組織構造などを根本的に見直し、再設計する「BPR」(ビジネスプロセスリエンジニアリング)が必要になります。ITソリューション観点での標準機能、標準プロセスを参考に業務変革を推進することで、後の導入や運用、拡張をスムーズに進められます。
単純に現状のプロセスをシステム化しようとするだけでは、期待される効果は限定的なものになるため、構想段階から施策のスコープ検討や将来を見据えた変革の検討が重要になります。次回はその詳細を解説していきます。
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