2030年の技術トレンドを調査から読み解く――JEITA会長会見:Weekly Memo(2/2 ページ)
これからどのようなデジタル技術がどんな分野にイノベーションをもたらすのか。2030年の社会はどう変わるのか。JEITAがその指標として示した調査レポートから探ってみたい。
デジタルを活用して経済成長と社会課題解決の両立へ
また、デジタルイノベーション市場のうち、IoT(モノのインターネット)機器は対2021年比で年平均9.4%増の成長が見込まれる。ソリューションサービスは同16.5%増とより高い成長が見込まれ、市場をけん引する見通しだ(図3)。
ソリューションサービスにおける利活用分野別需要額見通しにおいては、スマートファクトリーによる自律化や生産性向上に関わる製造分野が最も大きい。ブロックチェーンによる取引革命が期待される「金融」、街や生活のインフラ基盤改革が期待される「公共」が続く結果となった。成長率の高い分野は「金融」(対2021年比で年平均40.2%増)、「医療・介護」(同35.2%増)、「通信・放送」(同29.7%増)となる見通しだ(図4)。
では、デジタルイノベーションによって新しい物事はどのように起こり得るのか。同レポートは次のような見解を示している。
「デジタルイノベーションで重要になるのは、テクノロジーの組み合わせだ。動画像の遅延のない解析と円滑な利用、信頼できる個人データ管理基盤を生かした取引、仮想空間での買い物や交流、単純作業や危険作業の遠隔操作、脱炭素に向けた再生可能エネルギーへの転換、電動化や自動運転化や自律化など、さまざまな課題の解決を進めるためには、ベーステクノロジーに応用テクノロジーを組み合わせて、新たなユースケースを創り出すことが求められている。全ての産業で、これまでのやり方にとらわれない、テクノロジーを活用した発想の転換が求められている。それこそが新たな価値創造と成長の鍵となる」
ポイントをあらためて挙げると、「デジタルイノベーションで重要なのは、ベースと応用のテクノロジーを組み合わせて新たなユースケースを創り出す」ことだ。
同レポートでは「デジタルイノベーションには、社会課題解決に向けてテクノロジーを活用した新市場創出が期待されている。例として、少子高齢化や担い手不足の解消、地球温暖化対策や低消費電力の実現、ニューノーマルによる移動抑制、データ流通やデータ循環増大への対応、スーパーシティーやデジタル田園都市の実現などが挙げられる」として、表1のような変革例を紹介している。
JEITAはこうした社会のデジタルイノベーションをけん引する役回りだ。今回の会見で時田氏は「JEITAはデジタル産業の業界団体として、経済成長と社会課題解決を両立する豊かな社会『Society 5.0』実現の一翼を担う責務を引き続き果たしていきたい」と強調した。
この時田氏の発言とともに今回のテーマについて、最後に筆者も一言述べておきたい。Society 5.0構想には同意するが、問題は本当に経済成長と社会課題解決とを両立させられるかどうかだ。そのキードライバーがデジタル技術であることは間違いない。これからは社会課題解決を優先しながらどのようにして持続的な経済成長を遂げていくかが問われる。
もっと言えば、経済一辺倒なこれまでの社会とは異なる在り方を創造する必要がある。デジタルイノベーションによって急ぐべきは、新市場の創出もさることながら「経済社会の再構築」ではないか。そのためには消費による経済成長を前提とした消費社会からの転換として「節約志向」といえるようなマインドへの切り替えが不可欠だ。経済成長とは逆ベクトルの言葉なので、経済界は使いたがらないだろうが、節約もデジタル技術でスマートにできるはずだ。そう考えていくと、企業のみならず、社会にとってのDX(デジタルトランスフォーメーション)がどれほど大事なことか、お分かりいただけるのではないか。2023年は、その大きな転換期の年になるだろう。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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