ノーコード開発ツール「kintone」ヒットの理由――サイボウズ青野社長は何を語ったか:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業がDXを進めるためのテクノロジーとして、事業部門の担当者が利用しやすいノーコード開発ツールが注目されている。中でも普及に勢いがついてきているのが、サイボウズの「kintone」だ。多くのユーザーに受け入れられる理由について、同社の青野社長は何を語ったか。
サイボウズがイメージしている顧客価値とは
図3に示したkintoneのビジネスモデルで、パートナーとの協業事例2つとユーザーコミュニティーの活動事例1つが、ノーコード開発ツールの活用に向けて興味深い内容なので、以下に紹介しよう。
パートナーとの協業事例の1つ目は、地方銀行との連携強化だ。銀行に設置された「ITコンサルティング部隊」に対してサイボウズがkintoneの研修などを実施し、地方銀行が抱える顧客企業へのコンサルティング提案をサポートするという協業形態だ。現在、全国17行の地方銀行と協業しており、実働5年間で地方銀行によるコンサルティングを通じて約400社がkintoneを中心としたサイボウズ製品を導入したという(図4)。
青野氏は地方銀行との連携について、「全国に点在する地方銀行の行員の方々はプログラミングができるわけではないが、kintoneならば少しばかり勉強してもらえば使えるようになると考えた。行員の方々は地域のお客さまに信頼され、業務も熟知しておられるので良きパートナーになり得る。そうした予想が的中して、パートナーシップがどんどん広がっている」と確かな手応えを感じているようだ。
パートナーとの協業事例の2つ目は、人材派遣大手のパソナとの協業だ。これは、パソナの派遣登録スタッフにリスキリングでkintoneのスキルを身につけてもらい、DX人材として派遣先へ行ってもらおうというものだ。具体的な流れは、図5のようになっている。
1つ目は地方銀行の行員、2つ目は派遣登録スタッフを通じて顧客企業のDXを推進しようという取り組みで、これまでのIT分野のパートナーシップ形態ではなかった発想で興味深い。
ユーザーコミュニティーの活動事例は、エンタープライズ(大企業)向けの「kintone Enterprise Circle」(略称:kintone EPC)だ。これは、ユーザー同士で自社の課題や取り組みをアウトプットし、フィードバックや有益な情報、ノウハウを共有することで、各社でのkintone利用推進につなげようというものだ。この活動では2022年7月に「kintoneガバナンスガイドライン」を公開した(図6)。
青野氏はこの活動について、「kintoneのような事業部門でどんどん使われるツールは、一方でガバナンスにおけるリスクがある。とはいえ、規制をかけすぎると現場のノウハウが反映されなくなることから、そのバランスが非常に難しい。その点を踏まえてガイドラインとしてまとめてもらえたのは大変意義深いことだ」との見方を示した。
同氏は会見の最後に、図7を示しながら次のように話した。
「kintoneのビジネスモデルに描いた取り組みがさらに活発化すれば、企業において事業部門の方々が自分の考えで主体性をもって自分の手でDXをどんどん進められる。そうすると、デジタルで業務改善できる人材が広まり、全社的なDXへ発展するとともに、変化に強い組織へと進化できる。これが、私たちがイメージしている顧客価値だ」
最後に筆者も一言述べておくと、kintoneのビジネスモデルの話はノーコード開発ツールを利用するユーザーサイドから見てもDX推進のあるべき姿ではないか。ただ、これもDXの「D」を中心とした取り組みといえる。肝心なのは「X」、つまり何のために変革するのかだ。その問題意識が経営層と業務現場で一致していれば、kintoneのビジネスモデルに描かれた取り組みは大きな効果を生み出すだろう。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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