AIがもたらす「正解のない産業革命」を生き抜くための要件 ガートナーの提言から考察:Weekly Memo(2/2 ページ)
「ChatGPT」などの登場によって注目を集めるAIは、新たな産業革命をもたらすとの見方もある。企業はこの技術をどう活用すべきか。ガートナーの亦賀忠明氏の話から考察した。
AI活用は「やらなければ衰退し、劣化していくのみ」
3番目の「『なのか?』から『より高みを目指す』に」が示すのは何か。冒頭で紹介した亦賀氏の発言にもあるように、AI活用を推進する上で「儲かるのか、できるのか、どうするのか」といった論議をしている場合ではない。「やらなければ衰退し、劣化していくのみ」との危機感をベースにした表現だ。
同氏はとりわけ経営層に対して、「経営層はむしろ、AI活用の推進に向けて不安を軽減し、好奇心を評価して、社内をチャレンジ精神が溢れる形に持っていくべきだ。そのためには自らも積極的にスキルを身に付ける姿勢が必須となる。そういう時代が来たのだと認識しなければいけない」との見解を示した。
では、AI活用を推進していく体制を企業はどのように構築していけばよいのか。同氏は図3を示しながら、「AI活用推進のためのCoE(Center of Excellence)を軸として、それぞれのCoP(Community of Practice)においてMLOpsを動かすことによって、継続的かつ組織横断的に経験を共有して学習しながら、より高みを目指すことが重要だ」と説明した。
MLOpsとは、AIを活用したソフトウェア開発を効率的に行う手法を指す。同氏はMLOpsをクラウドにおける「サービスファクトリー」と位置付けている。
4番目の「『作業者』から『クリエーター』へ」ついて、亦賀氏は「ルーティンワークはAIやハイパーオートメーションに置き換えられる。エンジニアは最新のAIを駆使して新しい価値を生み出すクリエーターになることが求められる」と言う。そのエンジニアを活性化させるためのチェックリストとして、同氏は次の10項目を挙げた。
- ワクワクする、知的好奇心をくすぐられる、成長できる、学べる
- 良い仲間がいる
- かつてないこと、新しいことをクリエートできる、経験できる
- 社会に貢献できる、活躍できる
- リスペクトされている
- 縛りがない、自由度が高い、裁量が大きい
- 今どきのワークスタイルを考慮している
- スキルが適切に評価され、相応の対価が支払われている
- エンジニアのまま昇進できる
- 心理的安全性が重要視されている
最後に、9番目の「『業務』から『デジタルを前提とした新しいビジネス』へ」を取り上げておきたい。亦賀氏によると「業務にITを合わせる時代は終わった。ビジネスと顧客満足度に関係のない業務はデジタルに置き換えられる。AIは業務中心主義からデジタル駆動型ビジネスのイネーブラーになっていく」とのことだ。今回の話の中で、この指摘はとりわけ日本企業にとって重要なメッセージなのではないか。
「AIがもたらす正解のない産業革命が始まった。まずは自分でも使ってみてリアリティーを捉え、新たなリテラシーとデジタルの勘所が分かる能力を獲得するように注力すべきだ」。亦賀氏は講演の最後にこう語った。
「正解は分からないが、今はとにかく突き進むしかない」ということだろう。ならば、不安もあるが、自分たちを信じてワクワクしながらAIを“相棒”にしたいものだ。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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