自治体職員のリスキリング、主導権を握るのはどこか――ベネッセの取り組みから探る:Weekly Memo(1/2 ページ)
全国自治体のDX推進に向けて職員のリスキリングをどう進めればよいか。ベネッセコーポレーションの新たな取り組みから探る。
「日本初の全国自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたリスキリング推進ネットワークを発足した」
ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)の飯田智紀氏(社会人教育事業本部 本部長)は、同社が2023年5月10日に開催した自治体向けのリスキリング支援の新たな取り組みに関する記者会見でこう声を上げた。
自治体職員のリスキリング推進に向けた仕組み
同社は全国45自治体と「全国自治体リスキリングネットワーク」を同日発足させた。同ネットワークは、ベネッセが自治体のリスキリング支援と自治体間の情報交換を目的として運営する、いわばコミュニティーだ。
全国自治体のDXに向けて、大手ICTベンダーを中心にさまざまなビジネスエコシステムが活発化しつつある中で、ベネッセの今回の取り組みは興味深いポジションを獲得する可能性があるのではないか。そう感じたので、職員が必要なスキルを習得するリスキリングをどう進めればよいかというテーマとともに、探ってみたい。
なぜリスキリングが必要なのか
まず、この話の前提となる「なぜ、リスキリングが社会全体で必要とされているのか」について、飯田氏は次のように説明した(図1)。
「今、日本の社会全体でDXが進む中で、職種による労働需給のミスマッチが顕在化してきている。2030年になると、エンジニアは170万人不足する一方で、事務職などは200万人以上過剰になるとの調査結果もある。デジタル人材が不足することはこれまでも声高にいわれてきたが、進化したAIシステムに既存の職が代替されて、多くの過剰人員が発生する可能性がある。この問題を解消するために、社会全体でリスキリングを進めていくことが必要だ」
図1のグラフは三菱総合研究所が作成したものだ。確かにエンジニア不足は至るところで言われているが、事務職などで多くの過剰人員、つまり仕事がなくなる可能性があることを危惧する声はまだ小さいかもしれない。本稿でもこの点は重要な問題意識として訴えておきたい。
その上で、飯田氏は自治体を取り巻く環境の変化に伴う課題として「デジタル化の遅れ」「地域産業の衰退、人材不足」「非正規雇用の雇い止め」といった点を挙げ、「多くの自治体において、DX人材を育成することで、こうした課題に立ち向かおうという動きが出てきている」との見方を示した。
こうした動きに対し、ベネッセは2020年12月から社会人向けオンライン学習サービス「Udemy Business」を活用した行政、自治体向け人材育成プログラムを提供している。行政向け事業におけるアプローチは「行政DX」「中小企業DX」「市民(求職者)」の3つから構成されている(図2)。
その3つのアプローチによって、同社がこれまで支援した自治体の主な実績は図3の通りだ。2023年度は50以上の自治体で導入予定とのことだ。
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