自治体職員のリスキリング、主導権を握るのはどこか――ベネッセの取り組みから探る:Weekly Memo(2/2 ページ)
全国自治体のDX推進に向けて職員のリスキリングをどう進めればよいか。ベネッセコーポレーションの新たな取り組みから探る。
さまざまなビジネスエコシステムに横串を刺す存在に
一方、新たな課題も浮かび上がってきた。
ベネッセが2021年に31自治体の職員約1400人を対象として実施したDX推進に関する調査では、回答者の88.6%が「部門や職員によってIT知識に差異があり、話を進めるのが難しい、話を進めるのに時間を要する」と回答した。また、「DXと言っても何から学ぶと良いのか、どう学べばよいのか分からない」という意見も85.6%の回答者から寄せられた。
さらに、同社が自治体にヒアリングを重ねる中で「各自治体は似たような課題を持っているものの、それを共有する機会や、DX人材育成の先進事例を知る機会がなく、自治体間でそうした情報を交換できる場が必要ではないか」(飯田氏)といった課題が浮かび上がってきた。そこで、同社は各自治体へそうした提案を実施した。それがきっかけとなり、今回の全国自治体リスキリングネットワーク発足の運びとなった(図4)。
今後、ベネッセは同コミュニティーの運営を通じて、全国の自治体および中小企業におけるDX推進や、市民のリスキリング支援をより一層強化していく構えだ。まずは特設サイトや定期的な情報提供によって各自治体の取り組みを発信するとともに、テーマ別(役所内DX人材育成、地域企業のDX推進、市民のリスキリングなど)の分科会や地域別の情報交換会、ワークショップなどを開催する計画だ。
なお、ベネッセは今回の記者会見を全国自治体リスキリングネットワークのキックオフイベントと兼ねて開催した。参加する自治体のうち、12団体がかけつけた。
さて、こうしたベネッセの取り組みを全国自治体のDXに向けたビジネスエコシステムの観点から見てみると、その重要な要素となるリスキリングを含めて大手ICTベンダーを軸とした動きが複数存在している。これから激しい主導権争いが繰り広げられるのではないかというのが、筆者の見立てだ。そうしたバトルにベネッセも挑もうとしているように見て取れる。果たして、同社は主導権を取りに行くのか。会見の質疑応答で聞いてみたところ、飯田氏は次にように答えた。
「今回の取り組みは、社会課題の一つである全国自治体のDXを推進することが目的で、リスキリングの良い例も悪い例も自治体間で共有する場を作っていこうというのがミソだ。従って、ビジネスエコシステムにおいて主導権を握ることよりも、他社とオープンに連携、協力しながら社会課題の解決に貢献したい」
同氏が言うように、ベネッセの今回の取り組みにおける最大のポイントは、自治体間で「横連携」を促進するための仕組みを作ったことだ。この分野でさまざまなビジネスエコシステムが競合する可能性があるが、このコミュニティーはどんなエコシステムにおいても「横串を刺す」仕組みとして存在感を発揮するのではないか。その意味でも今後のこの動きには注目していきたい。
なお、ベネッセのリスキリングに対する考え方については、2022年8月15日掲載の本連載記事「『リスキリングは学び直しではなく経営課題だ』 今、リスキリングが注目される理由を探る」で解説しているので参考にしていただきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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