なぜ日本の大企業の生産性は低いのか? 「悪影響をもたらすテクノロジー」「好影響をもたらすテクノロジー」が調査で判明
従業員の生産性にテクノロジーはどのような影響をもたらしているのか。テクノロジーが生産性に与える影響に関するAdobeのグローバル調査で判明した、グローバルと日本企業との違いとは。
Adobeは2023年9月12日、「デジタルワークの未来」と題したグローバル調査の結果を公式ブログで発表した。
「テクノロジーの不備で1日2〜5時間が失われている」
同調査は、テクノロジー活用による生産性とその展望を検証する目的で米国や英国、オーストラリア、インド、日本の企業の管理職と従業員4500人以上を対象に実施された。
コロナ禍発生後のこの3年間に世界の企業は歴史的な変化を経験した。中でもオフィス出社と在宅勤務を柔軟に組み合わせるハイブリッドワークへの移行はデジタルワークの要となった。同調査によると、現在、大企業の63%は完全オフィス勤務を採用しておらず、47%はハイブリッド型の勤務体制を採用していることが分かった。
一方で、ハイブリッドワークにも課題はある。企業が成功を確実にするためには、生産性向上への取り組みが求められていることも判明した。調査に参加した大企業の従業員の31%は、デジタル面での不備などがハイブリッドワークをする上で生産性に悪影響を及ぼしていると回答していた。
「企業にとっての生産性とは何か」を明らかにするため、「生産性」という言葉から連想する状況について大企業の従業員に尋ねた質問に対しては、「仕事をより迅速に行うこと」「より多くの仕事を行うこと」「より少ない人数でより多くの仕事を行うこと」「収益をもたらすこと」ではなく、「よりインパクトのある仕事をすること」という回答が45%で最多の回答に上った。
また、Adobeは外的要因による生産性への影響がかつてないほど高まっているとみている。これを反映し、大企業の従業員の64%は、「経済の先行きの不透明さや社会的な不安」が仕事の生産性の妨げになっていると回答した。
主な懸念事項としては、グローバルにおける1位は「生活費の高騰」、2位は「不況の可能性」、3位は「賃金格差」だった。日本企業では「不況の可能性」と「仕事の柔軟性のなさ」が同率で1位、「生活費の高騰」が3位となった。
AIは生産性にポジティブな影響を与えているか?
外的要因による生産性低下に企業側が関与することは困難だ。しかし、適切なテクノロジーを従業員に提供することで競争上の優位性がもたらされる余地はある。
大企業の従業員の87%は「テクノロジーの不備による自社の生産性の低下」を認めており、64%はテクノロジーの不備によって「1日に2〜5時間分の生産性を失っている」と回答した。また、35%は、業務に不備のあるテクノロジーの完全な撤廃を望んでいることが分かった。
テクノロジーの不備が及ぼす影響は、生産性低下だけではない。大企業で働く従業員の20%は、業務におけるテクノロジーの不備によって「今後半年以内に退職する」ことを考えていた。
なお、「デジタルリテラシーのレベル」についての認識を聞いたところ、グローバルでは大企業の従業員の67%が、自身と所属チームのデジタルリテラシーについて「非常に詳しい、専門家レベル」と回答し、中小企業の58%に比べて高い結果だった。日本企業に絞ると、「非常に詳しい、専門家レベル」だと答えた人はわずか30%(中小企業では25%)で、グローバル平均やその他の国と比較しても低い数字となった。
テクノロジーを通じて企業の生産性を向上させるには、どのような手段が考えられるのか。同調査によると、「自動化」「AI(人工知能)」「デジタルドキュメント」が企業が投資すべき分野であることが判明した。
AIと自動化は、ほぼ例外なく「仕事にポジティブな影響を与える」と考えられていることが分かった。大企業の従業員の93%が「AIテクノロジーがポジティブな影響を及ぼす」と回答し、27%はこれを「奇跡」とまで評した。
さらに、AIが生産性に与える主なメリットとしては、1位が「時間の節約」(68%)、2位が「従業員の仕事の迅速化」(63%)、3位が「退屈または面倒な仕事の軽減」(45%)が挙げられた。AIを利用する従業員の半分近く(43%、中小企業では33%)は、「AIによって働き方は完全に良い方向へと変わった」と回答した。
昨今、ビデオツールやコラボレーションツールが企業の業務を支配していると思われがちだが、デジタルドキュメントもいまだに重要な業務であることが明らかになった。調査に参加した大企業の従業員は「Zoom」や「Microsoft Teams」などのビデオ会議ツール(66%、3位)、共同作成や資料共有の際に活用するコラボレーションテクノロジー(68%、2位)を抑えて、「Adobe Acrobat」での作成や編集、レビューや、コラボレーションが可能なPDFなどのデジタルドキュメントを「なくてはならない」テクノロジー(74%、1位)に挙げた。
一方で、従業員の間でデジタルドキュメントが重要視されているにもかかわらず、45%は「自社の業務の半分以上がいまだ紙に頼っている」と回答した。また、大企業の従業員は「デジタルと紙の混在するドキュメントの管理」(36%)や「紙文書によるコラボレーション」(34%)、「紙文書の印刷」(29%)などの紙ベースの業務によって生産性が低下していると回答した。
生産性向上は経営陣と従業員の共通責任
Adobeは、同調査結果を踏まえて「従業員は企業が適切なテクノロジーを採用し、サポートすることに深く関与しており、彼ら自身も課題解決に向けて携わっていると考えている」ことが示唆されているとした。それを裏付けるように、大企業の従業員の58%は「仕事の生産性のマネジメントの責任は主に自分たちにあり、テクノロジーリーダーや管理者はサポート役だ」と回答した。
テクノロジーが生産性の妨げとなる場合、従業員が取るアクションとしては、「より良いソリューションを見つけ、雇用主にそれを薦める」「より良いテクノロジーへの投資を組織に促す」「より良いソリューションを発見し、自ら使用する」などが考えられる。
優れたテクノロジーは優秀な人材の獲得につながるため、経営陣はこの点に注視すべきだとAdobeは指摘する。調査では、大企業の従業員の93%が「業務におけるテクノロジーが、新しい会社での役割を引き受けるかどうかを決定する要因である」としており、72%は「有力な検討事項」または「絶対に必要な要素」だと回答していた。
ハイブリッドワークにおける生産性の向上は、大企業の経営陣と従業員の共通責任であることは明白であり、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、こうした共通責任の中心的な存在となる。「テクノロジーの不備は成長を阻害する可能性があるが、AIや自動化、デジタルドキュメントの技術の進化に投資することで、社内外の成功の加速につなげることができる」とAdobeは指摘する。
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