iPhone 15だけが“花形”じゃない Appleがあの製品を「目標への第一歩」と呼ぶ理由:Supply Chain Dive
USB Type-Cが「やっと」採用されたことを受けてiPhone 15は品薄状態が続いている。しかし、実はAppleが「目標への第一歩」と呼ぶ2023年発売の製品は別にある。同社が語る目標の具体的内容と、その達成のための方策とは。
大手テック企業であるAppleは2023年9月12日(現地時間、以下同)、同社の新製品を複数発表するとともに、「Apple 2030」と呼ばれる野心的な目標の進捗(しんちょく)にとって重要な情報を公開した。
「目標への第一歩」と呼ばれる“あの製品”
主な注目は新型スマートフォン「iPhone 15」に集まったが、同社が「目標達成への第一歩」を踏み出すための新製品は別にあった。
Appleは同日の発表で「同社に部品を供給している300社以上のサプライヤーが2030年までに製品の生産過程においてクリーンエネルギーを100%使用することを約束した」ことを明らかにした(注1)。
最近さらに50社以上のメーカーが同様のコミットメントを表明した。これらの動きを受けて、サプライヤーの脱炭素への移行を支援する「サプライヤー・クリーンエネルギープログラム」によってAppleの製造コストの90%が占められるようになった。
Appleは今回の発表に伴い、「同社製品の製造にかかわるサプライチェーン全体で2030年までに、カーボンニュートラル(注2)を実現する目標に近づいた」としている。この目標にはグローバルサプライチェーンが含まれ、同社製品を耐用年数まで使用することが前提となっている。同社はまた、2030年までにサプライチェーン全体におけるCO2を75%削減することも視野に入れている。
「2030年までに全ての製品をカーボンニュートラルにする」
Appleが発行した最新のサステナビリティレポートによると(注2)、同社製品に関連する炭素排出量の約65%は、自社ではなくサプライヤーが製造過程で排出する、いわゆる「Scope3」と言われる間接排出によるものだ。過去2年間、Appleと同社に部品を供給しているサプライヤーは、サプライチェーン全体における再生可能エネルギー由来の電力消費量を3倍に増やそうと取り組んできた。
Appleは2022年、数十億ドル規模のグリーンボンド(注3)を発行した。また、同社はサプライヤーが利用する電気をクリーンエネルギーに移行させるため、独自に資金を投入した(注4)。最新のサステナビリティレポートによると、同社は中国と日本で総出力約500メガワットに上る太陽光発電と風力発電のプロジェクトに投資しており、さらに多くの投資を計画している。
Appleはまた、2020年以降は自社事業におけるカーボンニュートラルを実現しているという。
300社以上のサプライヤーがクリーンエネルギーに移行するというコミットメントを発表したのと同じ2023年9月12日、同社は「Apple Watch」シリーズで初のカーボンニュートラル製品を発表した(注5)。Apple Watchには複数のモデルがあり、同社は本体の他に付属品としてバンドも販売している。アルミニウム製の「Apple Watch Series 9」と「Apple Watch SE」は新しく発売されたスポーツループと組み合わせることで、「Apple Watch Ultra 2」は新しいトレイルループまたはアルパインループと組み合わせることで「カーボンニュートラルなApple Watch」になるという。同社は今回のカーボンニュートラル製品の発売を「2030年までに全ての製品をカーボンニュートラルにするという目標に向けた旅における大きな一歩」と呼ぶ。
Appleによると、同社の「カーボンニュートラル製品」はCO2排出量を75%削減している。それを後押ししたのが製品デザインの変更とクリーンエネルギーの利用だ。具体的には、製造工程で再生可能エネルギー由来の電力を100%使用し、リサイクルまたは再生可能な材料を30%使用している。さらに製品の50%以上を(多くの化石燃料を消費する)空輸以外の手段で輸送している。
同社が販売していたウォッチバンドにはこれまでレザー製のものもあったが、今回から「FineWoven」と呼ばれる新素材に置き換えられた。FineWovenにはリサイクル素材が68%使用されている。AppleはFineWovenを「炭素集約度の高いレザーに比べてCO2排出量が大幅に少ない」としている。
(注1)Apple advances supplier clean energy commitments(Apple)
(注2)製造過程で排出されるCO2を、植樹やグリーンボンドの購入、排出権取引などによって相殺することで「炭素中立」を達成すること。排出されるCO2の量と吸収されるCO2の量を等しくすることで、経済活動による地球環境への影響を抑制するという考え方に基づいている。
(注3)Environmental Progress Report(Apple)
(注4)企業や地方自治体が、環境問題解決のためのプロジェクトに必要な資金を調達するために発行する債権を指す。
(注5)Apple’s $4.7B in Green Bonds support innovative green technology(Apple)
(注6)Apple unveils its first carbon neutral products(Apple)
(初出)More than 300 Apple suppliers have commited to clean energy
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