7割以上の企業がDXのために取り組んでいることとは? ガートナーが調査
ガートナーによると、国内企業がDXに取り組む目的は従来の効率化や既存ビジネスの改善に加えて新規事業にも拡大している。こうした変化に伴って、多くの企業が実施しているITシステム領域の取り組みとは。
ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2023年10月26日、国内のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みに関する調査結果を発表した。
同調査は、国内企業のITシステムの構築や導入、保守、運用およびサービス委託先の選定に関与している担当者を対象に2023年5月に実施し、400社から有効回答を得た。
7割以上の企業が取り組む「あの分野」
同調査では、8つの取り組み分野についてDXの取り組み状況を尋ねた。
その結果、最も多くの回答が集まったのは「既存ビジネスのコスト削減やオペレーションの効率化」(79.3%)で、「データやITインフラ等の基盤の整備」(73.3%)が続いた。
また、既存ビジネスの改善だけでなく、「新規事業等の新しい価値提案の創出」を目的としたDXに取り組む企業も60%を超え、日本企業の取り組みが既存ビジネスにとどまらず、幅広い分野に広がっていることが確認できた。
ガートナーの中尾晃政氏(シニア プリンシパル アナリスト)は、「既存ビジネスに対する取り組みに次いで、『新規事業等の新しい価値提案の創出』『新しい顧客ターゲットやチャネルの拡大』などが上位に挙がった一因としては、コロナ禍で顧客のビジネスを取り巻く環境や消費者行動が変化したことが挙げられる。テクノロジーを活用し、ビジネスや顧客を獲得するための新たなビジネスの仕組み作りは、今後も日本企業にとって重要なテーマになるだろう」と語る。
一方、「今回の調査で『データやITインフラ等の基盤の整備』に取り組んでいると回答した企業が70%を超えたことは注目すべき点だ」とも指摘する。「DXの取り組みが新しいビジネスに広がる中、既存システムに蓄積されたデータ活用にとどまらず、新規ビジネスの立ち上げに伴った新しいデータとの連携機会が増えていることが考えられる。それらのデータを連携させるためには、各部門でサイロ化された既存システムとの連携基盤の構築が必要になる。既存の仕組みで実現が難しい場合は、クラウドへの移行なども含めた抜本的なデータ連携基盤の整備も必要になる。DXを進める日本企業にとって、『データやITインフラ等の基盤の整備』は、より一層重要な課題になったといえる」(中尾氏)
急がれる基盤整備、IT部門に求められるのは何か
同調査で、DXの取り組みを主導する組織を尋ねる質問に対しては、「データやITインフラ等の基盤の整備」を筆頭に「既存ビジネスのコスト削減やオペレーションの効率化」など5つの項目でIT部門が主導している割合が高いことが分かった。
一方、「新規事業等の新しい価値提案の創出」「新しい顧客ターゲットやチャネルの拡大」「新しい収益流(収益を得る仕組み)の確立」の3つの項目については、事業部門など非IT部門が主導している割合が高かった。
IT部門がDXの取り組みを主導する分野が多かった要因として「既存や新規ビジネスに関連するデータやITインフラなどの基盤の整備の必要性が増してきた」点をガートナーは挙げる。事業部門などの非IT部門が主導している割合が高い分野は、ビジネスモデルの変革に主眼が置かれた取り組みであるため、「事業部門が主導することは自然な流れだといえる」としている。
中尾氏は「今後、事業運営の柔軟性や迅速性を高めるため、自らデジタルの能力を補完し、クラウドを活用し、その運営を含め、全て対応することも考えられる。重要な役割を担うIT部門としては今後、主導する事業部門などへの側方支援の必要性や、支援のための組織フォーメーションをどのように構築するかといった検討も進めていく必要がある」と解説する。
社外リソースの活用方法やベンダー管理が今後の鍵
同調査では、内製と外製の状況についても調査した。DXに関連するシステムの企画、設計・開発・実装、システムの運用・管理・保守の3工程について、各工程の大部分を社内のリソースで対応している企業は20〜30%にとどまった。一方、程度に関係なく社外のリソースを活用している企業の割合は60%以上に上った。
企画工程では、社外の知見や新たなアイデアを取り入れてデジタルビジネスを進めようとする企業の意図がうかがえる。一方で、クラウドやAI(人工知能)、アナリティクスの導入におけるシステムの設計・開発・実装以降の工程では「社外の人材リソース、ITベンダーに頼らざるを得ない側面もある」とガートナーは分析する。
中尾氏は「社外のリソースを補完的に利用している企業と全面的に利用している企業に分かれる。社外リソースの活用は、IT部門の社内における立ち位置や、IT人材の不足状況などの状況によって左右される。今後の方向性は、分野によって、より内製に振れる分野とそうでない分野でメリハリのついたソーシングになると考えられる」と話す。
こうした変化に伴う社外リソースの活用方法の変化について中尾氏は「現在、社外のリソース活用においては、多くの企業で『既存システムの開発や運用などで付き合いのあるITベンダー』に頼る状況がうかがえる。特に、大手ITベンダーには資金力があり、新しいサービスの拡充やDXに関連する人材の補充、M&Aを含めた新技術への投資にも余念がない。こうしたベンダーのケイパビリティをうまく活用するメリットは大きい。しかし、大手ITベンダーも万能ではない。デジタルの取り組み分野によっては、ベンダーの能力を見極めると同時に、ベンダーとの関係性の見直しや、多彩なソーシングオプションの活用を検討する可能性も出てくるだろう。企業にとって、DXの推進とともに社外リソースの活用やベンダーの管理を強化することは、ますます重要になる」と指摘した。
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