金融機関の脱炭素化、どう進める? 日立システムズが炭素会計プラットフォームの導入を支援
経営における脱炭素化施策の重要性が高まっている。金融機関が投融資先企業の脱炭素化施策を評価するためには、「そもそもどれだけ排出しているのか」を効率的に可視化することが必要だ。「排出量の可視化から脱炭素化施策の支援まで」をうたう日立システムズの支援事例を見てみよう。
日立システムズは2024年1月29日、フィデアホールディングス(以下、フィデアHD)に、Persefoni AI(以下、パーセフォニ)の炭素会計プラットフォームサービス「Persefoni」の提供を開始したと発表した。日立システムズは同サービスを通じて、フィデアグループの投融資先企業に対するファイナンスドエミッション(金融機関の投融資先の温室効果ガス《GHG》排出量)算定への取り組みを支援するとしている。
導入でファイナンスドエミッションの算定効率化・自動化を図る
日本政府は2050年までに二酸化炭素(CO2)を含むGHG排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル宣言」を2020年10月に発表した。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年6月に「サステナビリティ開示基準」として、「スコープ1」「スコープ2」に加えて、原料調達先などの取引先企業や配送時も含めたサプライチェーン全体を対象とする「スコープ3」を含めることを確定した。これによって、2026年4月までに有価証券報告書に「スコープ1」から「スコープ3」までのGHG排出量を記載することが義務化される見込みだ。上場企業を中心に炭素会計への対応が求められている。
金融機関は、「スコープ3」の「カテゴリー15」(投資:株式投資や再検討し、プロジェクトファイナンスなどの運用に際して発生する)に当たる、自社のGHG排出量の大部分を占めるファイナンスドエミッションの算定・開示が重要だ。さらに、投融資先企業へのエンゲージメント(顧客企業との対話)を高めて、GHG排出量削減に向けた支援を強化する必要がある。
フィデアHDは今回、こうしたエンゲージメントを通じた支援に注力するために、土台となるファイナンスドエミッションの算定効率化・自動化が重要と考えて、パーセフォニの炭素会計プラットフォームの導入を決定した。
日立システムズは、2022年5月にパーセフォニとリセラー契約を締結し、炭素会計プラットフォームの提供を開始した。自社でも同プラットフォームを利用したバリューチェーン全体におけるGHG排出量の可視化に取り組んでいる。フィデアHDとは2023年末に契約を締結し、2024年1月15日から稼働を開始した。
日立システムズは、国際基準の「金融向け炭素会計パートナーシップ」(PCAF)に準拠したファイナンスドエミッション算定とするため、国内の産業分類コードから「世界産業分類基準」(GICS)コードに変換する仕組みを提供する。GHG排出量削減に向けては、日立グループ全体で所有するGHG削減ソリューションを提供している。
フィデアHDは、政府が主導する2050年カーボンニュートラル宣言の実現に向けて、地域のGX(グリーントランスフォーメーション)支援に注力してきた。人員が限られる地方の金融機関にとって、自社や投融資先のGHG排出量算定の効率化が大きな課題になっていた。投融資先企業とのエンゲージメント強化を目的に投融資先の排出量算定における効率化を図るため、日立システムズのサポートのもとPersefoniの導入を決定した。
日立システムズによると、Persefoniは、世界の各業種企業に導入されており、特に金融機関から以下のような評価を得ている。
- PCAFに厳密に準拠: 金融機関がファイナンスドエミッションを容易に算定できるよう、PCAFに基づく排出ロジックやグローバル排出原単位を実装している。また、投融資先企業の財務データや排出量データなど、算定に必要なデータを自動で収集するための外部連携も進めている
- 削減プラニングツールの提供: 自社独自、あるいは「科学に基づく気候目標を設定した組織・企業間のコラボレーション」(SBTi)の削減目標の管理に加え、目標達成に向けた削減施策を計画するプランニング機能を提供する。同機能により金融機関は、投融資先企業が気候変動対策をより積極的に進めるよう提案する、もしくはポートフォリオの見直しを容易に実施できるようになる
- 多様な分析・可視化機能の提供: 売上炭素強度や「WACI」(Weighted Average carbon intensity)など、ポートフォリオを管理する上で金融機関が一般的に使用している指標を用いて、投融資先企業のGHG排出状況を比較しやすくするモジュールを提供する
これらを活用することによって、金融機関は投融資先企業のサステナビリティ施策を厳密に評価して、投融資によるリスクや機会を適切に管理できるようになるとしている。
日立システムズは今後、各地域金融機関にPersefoniの導入を推進し、算定分野以外にも支援分野を広げ、脱炭素化へのトータルサポートを進めるとしている。
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