IT部門の「パンク寸前」問題 さらに拍車を掛ける“あのブーム”:CIO Dive
従業員のスキル格差やコンプライアンス問題、データのサイロ化問題が企業のモダナイゼーションを遅らせている。さらに最近起きたあるブームによって、IT部門の悩みはさらに深刻化している。
Salesforce傘下の統合ソフトウェアベンダーであるMulesoftによると、2023年におけるIT部門によるプロジェクトリクエストは前年比で39%増加したという。これは同社が2024年1月23日に発表した、年次接続性ベンチマークレポートのための調査(技術系意思決定者1050人が対象)に基づいている(注1)。
「データ統合」「人材不足」問題をさらに悪化させる“あのブーム”
従業員のスキル格差とコンプライアンスへの懸念によって、モダイナイゼーションの進捗(しんちょく)が遅れていることが調査で明らかになった。5人のうち4人の回答者が「サイロ化したデータがDX(デジタルトランスフォーメーション)の妨げになっている」と答えた。
さらにIT部門を悩ませているのが、“あのブーム”による負担増加だ。
回答者のうち5人中3人は「データシステムが新たなAI(人工知能)機能を十分に活用できるように構成されていない」と回答している。
Salesforceのパラム・カーロン氏(自動化・統合担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャー)は「企業はDXの推進や生成AIツールの導入、LLM(大規模言語モデル)の実装をIT部門に求めるようになっている」と話す。
データの運用や分析は一貫して企業の優先事項になってきた。ただし、生成AIは成長するパイプラインに非構造化データの新しいソースを膨大に供給している。
CIO(最高情報責任者)がアップグレードを優先する中、IT部門はサイロ化したデータと複雑なエコシステムに苦しんでいる。
カーロン氏は「CIO Dive」の取材に対して「企業が顧客や製品、財務の全てのデータセットを一つの統一されたデータソースで管理することを期待するのは現実的ではない。それは実現不可能だ」と語った。
企業の要望は、データを管理や処理、分析するために使われるデータスタックの限界を超えている(注2)。
ITベンダーがクラウドベースのAI市場を拡大するにつれて、ITリーダーが今後3年間で使うLLMの数は着実に増え、70%近く増加するとMulesoftは予想する。回答者の5人中4人は「既に自社で複数の予測型AIおよび生成AIモデルを使用している」と答えた。
より確実なデータ運用をサポートする人材の確保は依然として難しい。生成AIを活用したプラットフォームを運用するDatabricksが委託して実施した調査の報告書「MIT Technology Review」によると、企業におけるAI導入の最大の懸念事項はスキル不足だった(注3)。
人材確保が困難であるにもかかわらず、Salesforceでは組織がIT部門に期待することが「急増している」とカーロン氏は言う。
「企業は基本的に、変革と技術がビジネスのやり方を変えると信じている。IT部門はより多くのプロジェクトをこなせるよう、ビジネスに関する膨大な要求を突き付けられているのだ」(カーロン氏)。
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