日立は「生成AIを活用するための組織づくり」をどう進めているか 徳永副社長に聞く:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業は生成AIとどう向き合い、どう活用していくべきか。そのヒントを探るべく、生成AIの活用を積極的に進めている日立製作所の德永副社長に話を聞いた。
生成AI活用を全社の取り組みとして推進せよ
ここまで、日立の生成AIの捉え方や社内外における活用の仕方について德永氏の話を聞いてきたが、それらを踏まえて企業が生成AIを活用する上で最大のポイントとなるのは何か。
「生成AIはこれまでにないイノベーションをもたらす一方で、さまざまなリスクも伴っている。生成AIを企業として活用する上で最も大事なポイントは、それを使う全ての人が生成AIの特性をきちんと理解して取り扱うようにすることだ。当社ではLumadaにおいて社会に役立つユースケースを今後もどんどん提案する一方で、社内における活用やガバナンスを推進する新たな取り組みのために2つの組織を立ち上げる」
2つの組織とは、AIトランスフォーメーション推進組織とAIリスク管理組織だ。前者はその名の通り、生成AIを活用して全社のAIトランスフォーメーションを推し進めるのが目的で、2023年11月に発足した。德永氏が陣頭指揮を執っている。後者は、AI活用におけるリスクを管理する組織として2024年4月に発足する予定だ。
重要なポイントは、2つとも「全社横断組織」であることにある。つまり、德永氏の言う「全ての人の理解を得る」ために全社での取り組みをリードする組織となるわけだ。
さらに事業組織であるDSSやグリーンエナジー&モビリティ、コネクティブインダストリーズの3セクターには「Chief AI Transformation Officer(最高AIトランスフォーメーション責任者:CAXO)」を2023年12月に設置した。各事業領域におけるAIトランスフォーメーションの推進役を任命した。
一方、上記の動きに先駆けて、DSSセクター内に生成AIのスペシャリストを集めた「Generative AIセンター」を2023年5月に設立した。同センターは図2に示すように、社内向けに生成AI活用をサポートするとともに、生成AIを活用したLumada事業としてコンサルティングサービスや環境構築・運用支援サービスを提供している。
德永氏はこうした活動を通じ、「当社は、生成AIを活用してどこよりも社会課題を上手に解決できる存在になりたい。世界で最も社会の役に立つ会社になりたい」と力を込めた。
AIトランスフォーメーション推進やAIリスク管理を全社で取り組む体制づくりやCAXOの設置、生成AIのスペシャリスト集団によって社内外の活動をけん引するといった点は、他の企業でも参考にできるところがありそうだ。とりわけ、生成AIの活用を全社の取り組みとして推進することは、德永氏の冒頭での発言の通り「企業にとって今後の盛衰を決める」大きな要因になるのではないか。
とはいえ、特に生成AIのスペシャリスト集団については、「日立だからできるのではないか。うちにはAIのスペシャリストなどいない」との声も聞こえてきそうだ。そういった企業はどうすればいいのか。
「生成AIをどう活用するかという前に、自分たちはどうなりたいのか、そのための課題は何かを明確にする必要がある。そうすれば、生成AIをどう使えば効果的かも見えてくる。AIのスペシャリストがいなければ、そうした課題の抽出からサポートしてくれるDXの協創パートナーを探すのが得策だ。ぜひ、お声がけいただきたい」
冒頭で、生成AIは企業競争力に大きな影響をもたらすと述べたが、その影響をポジティブに捉えて、企業として生成AIを上手に活用したいものだ。德永氏の話をぜひ参考にしていただきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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