“AIを使う人”が取り組むべきリスキリングとは? ベネッセの会見から「AI時代の必須スキル」を探る:Weekly Memo(2/2 ページ)
AIが企業の業務を自動化していく中で、人間はこれからどんなスキルを身に付けていけばよいのか。AI時代のリスキリングのあるべき姿について、ベネッセの会見から考察する。
AI時代に人間に求められるスキルとは
飯田氏はさらに、リスキリングによる企業や組織の成長につながる重要な要素として「戦略」「文化」「ラーニングヒーロー」の3つを挙げた。以下、それぞれのポイントを記しておこう。
[戦略]
- 目的や方針が中期経営計画やトップメッセージとして重要な位置付けにある
- 従業員の学びを促進する仕組み化によって、戦略的に施策が実施されている
- リスキリングの成果に対する報酬が人事制度や育成方針などに組み込まれている(ただし、金銭に限らない)
ここで最も重要なポイントは1番目、つまり「経営戦略としての取り組み」かどうかだ。
[文化]
- 推進部門が従業員の施策や成果を可視化し、変化の推移や成果を観測できている
- 従業員が学んだ結果のアウトプットが組織内で生かされている
- 学んだ社員が、自律的にキャリア開発したりオープンポジションに挑戦するなど、異動や配置に生かされた経験がある
飯田氏によると、「文化は戦略と比べて中長期的な視点で取り組んでいる企業が多い」とのことだ。
[ラーニングヒーロー]
- 学びを推進するラーニングヒーローがいる
- ラーニングヒーローを中心にコミュニティやイベントが発足し、それを組織が支援している
- 学んだ人間や成果にスポットライトが当たる仕組みがある
飯田氏によると、ラーニングヒーローとは「学びによって自らの行動を変え、それが周囲にもインパクトを与えるような存在」で、「若手もシニアも世代に関係なく生まれてきている。こうした存在を企業が意図的に生み出し、支援し、波及効果を作り出すかが重要で、そこは戦略ともひも付いている」とのことだ。
こうした3つの要素の動きを踏まえ、飯田氏は「それぞれの動きとともに個人の学習や組織の取り組みをどのように組み合わせていけば、さらに効果的なリスキリングを実行できるかどうかを、学習の履歴データやエンゲージメント調査などから科学的に解析することに挑んでおり、何らかの解明ができれば改めて発表したい」と述べた(図3)。
もう一点、会見で開示された情報の中から、Udemy受講者によるリスキリングの2024年の学習ランキングを世代別にみた図4を紹介しておこう。
リスキリングの学習内容は企業ごとに異なるため、このランキングはあくまで参考として見ていただきたい。生成AIの「ChatGPT」が全世代で1位、DXが総合2位と、やはりデジタル技術が対象となることが圧倒的に多いようだ。
そこで筆者は会見の質疑応答で、冒頭で述べたAI時代のリスキリングにおける問題意識について質問した。すると、飯田氏は「AIのリスキリングは『AIを使う人』と『AIを作る人』によって異なる」として両方について説明した。「AIを作る人」についてはエンジニアの領域になるので、ここでは「AIを使う人」についての同氏の説明を紹介する。
「AIを使う人にとってのリスキリングでまず挙げられるのは、生成AIを使いこなすためのプロンプトをきちんと書けるようになることだ。これはこれから非常に重要なスキルになるだろう。生成AIに要望を出すためのプロンプトは国語そのものであり、文章構成やロジカルシンキングの能力を高める必要がある。さらに、AIはこれからあらゆるところに組み込まれるので、それを使って何がしたいのかといったクリエイティブな発想が求められる。そうしたスキルを磨いていくことが重要になるだろう」
これからはAIによって、デジタル化された作業はどんどん自動化していく。言い換えると、今PCで実施している作業はAIによって自動化される。そうなると、人間に求められるスキルはクリエイティブな領域だ。全ての人間がそのように動けるかどうかという懸念はあるが、リスキリングでそのスキルをどのように磨いていくかが今後非常に重要な課題になるだろう。その意味では飯田氏の問題提起に筆者も全く同感だ。
AI時代のリスキリングにおける課題は浮き彫りになってきた。どう対処していくか。知恵の出しどころである。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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