AI導入の成長率がインターネット普及期越え 急増の裏に隠れた3つの課題
日本企業におけるAI導入率は43%に達し、その成長率は2000年代初頭のインターネット普及期を上回る勢いで進んでいる。しかし、業務の変革にまで至っていない現状も浮き彫りとなった。
Amazon Web Services(AWS)は2025年9月2日、日本におけるAIの普及状況と課題をまとめた調査レポート「Unlocking Japan’s AI Potential 2025」を発表した。
調査結果によると日本企業におけるAI活用は急速に進展している。全企業の43%がAIを導入済みとしており、前年比で30%の成長率を示した。この成長率は2000年代初頭のインターネット普及期を上回る水準となっている。しかし、この勢いはあくまで表面的なものにすぎないかもしれない。
AIの能力を十分に引き出せていない企業が抱える課題
AIを導入した企業のうち、半数は収益が平均22%増加したと回答している。79%が生産性向上を報告しており、その内訳としてはデータ分析やレポート作成の効率化(61%)、定型業務の自動化(50%)などが大きな要因となっている。導入企業の75%が翌年の成長加速を見込んでおり、同じ割合でコスト削減効果を予測している。削減効果の見込みは平均35%とされている。
政府は2025年初頭に「世界で最もAIに適した国」を目指す方針を打ち出しており、成長志向の規制政策を掲げている。過度な規制を避けつつ、産学官の協働による信頼性の高いAIエコシステムを構築することを目標としている。レポートにおいて、日本がイノベーション拠点として台頭している点も強調され、とりわけスタートアップがAI活用の先端で重要な役割を担っていることが示されている。
調査によれば、2024年だけで36万社以上が新たにAIを導入し、現在では150万社超がAIを活用している。専用のAI予算を持つ企業は68%に上り、過去1年間のAI投資額は平均23%増加した。スタートアップでは84%がAIを導入済みであり、36%が新しいAI駆動型製品やサービスを開発している。
課題も浮き彫りにしている。導入の障壁として人材不足(39%)と初期コストの負担感(37%)が多く挙げられている。AIを全社的に戦略的に活用している企業は13%にとどまっており、大多数は探索段階(72%)または部分的な統合段階(7%)にとどまっている。多くの企業がチャットbotや文章生成といった基本的な利用にとどまっており、業務全体を変革する取り組みは限定的だ。
大企業の導入率は68%と高いが、その活用は効率改善に偏りがちであり、新たな製品やサービスを生み出している割合は11%とスタートアップの3分の1程度にとどまる。この差については二層化した経済構造につながる懸念が指摘されている。人材不足は特に大企業で深刻であり、42%が障壁として挙げている。
経済効果の見込みも大きい。2023年にはクラウドおよびクラウド対応AIが日本のGDPに288億ドル寄与したとされ、アジア太平洋地域全体では2.9兆ドル規模に達する可能性がある。そのうちAI単体で2030億ドル規模の貢献が見込まれている。
AWSは課題解決の方向性として「デジタルスキル育成の強化」「規制の明確化」「公共部門のデジタル化推進」という3つのポイントを提示している。
現在、AI関連スキルを持つ人材は不足しており、企業の39%が採用難を訴えており、過去1年でAI研修を受けた割合は8%にとどまる。AWSは2017年以来70万人以上にクラウド研修を提供し、2025年までに200万人にAIスキル研修を提供する計画を前倒しで達成した。
規制の明確化では現在、規制議論を理解している企業は14%にすぎず、不透明さが意思決定に悪影響を及ぼしている。日本の企業は技術予算の22%をコンプライアンス関連に充てており、今後3年で47%が「増加を見込む」と回答した。
公共部門のデジタル化推進では市民の72%が政府のデジタルサービス改善を求めており、医療や社会保障分野が重点領域とされている。公共調達の活用は民間のAI導入を促進し、52%の企業が「政府が先導すれば導入意欲が高まる」と回答した。
本調査は2025年3月22日〜4月3日にかけて実施され、1000人のビジネスリーダーと1000人の一般移民を対象に実施された。調査結果は、日本がAI活用の最前線に立ちながらも、人材、規制、投資環境といった課題を克服する必要があることを示している。AIの導入が進む中、戦略的な統合を推進することが今後の競争力の鍵となると結論付けている。
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