経理、財務の戦略的なAI導入はわずか2% 日本企業がExcelを手放せないワケ
最新の調査で、財務業務全体にAIを戦略的に統合している日本企業はわずか2%と判明した。日本の経理・財務部はなぜExcel依存から脱却できないのだろうか。
物価高騰と人手不足に直面する日本の企業財務部門は、コスト削減と業務効率化を喫緊の課題としている。しかし、AIの活用は遅れており、財務業務にAIを戦略的に統合している日本企業はわずか2%だ。これはグローバル平均の26%と比べ、大きな遅れを示している。
その背景には、「『Microsoft Excel』からの移行を検討中」という声に代表される、日本企業特有の課題が存在する。
日本企業におけるAI財務統合の遅れと課題
Coupaは2025年9月2日、日本CFO協会と共同で「日本CFO戦略調査:2025年」を発表した。本調査は日本企業のCFOや経理・財務幹部を対象に実施され、持続的成長を実現するための支出改革や、AI、テクノロジー活用の実態を明らかにしている。
調査によると、日本企業の最高財務責任者(CFO)が最大の脅威として挙げたのは「物価上昇・コスト高騰」(66%)と「労働力不足・技能人材不足」(46%)だ。グローバル調査では「不安定な地政学的状況」や「サプライチェーンの混乱」が上位であるのと対照的で、日本特有の経営環境が反映されている結果となった。今期の財務目標達成に懸念を抱く日本のCFOは85%に達し、欧米の69%を大きく上回る水準を示した。
企業価値を高めるための戦略において、「戦略的な投資配分による資本効率の向上」(53%)と「支出管理とコスト構造の最適化」(50%)が優先度の高い領域として挙げられている。CFOは支出管理を単なるコスト削減のための手段(71%)にとどめず、投資判断や利益率改善に直結する戦略領域(55%)としても位置付けていることが明らかになった。
支出管理の実行において日本企業が抱える最大の課題は「全社的な支出データの可視性不足」(56%)としている。続いて「複数ソースに分散したデータ収集の非効率」(50%)、「適時性の欠如」(27%)といった問題が指摘されている。特にリアルタイムでの支出データへのアクセスが十分でない点が大きな障害となっている。
AI活用に関しては、財務・調達業務全体に戦略的に統合している日本企業はわずか2%にとどまった。グローバル調査で26%が統合済みと回答しており、日本企業との間には大きな差がある。日本では「未導入だがExcelなどの従来ツールからの移行を検討・調査中」(39%)が最多であり、導入の遅れが浮き彫りとなった。
DX推進の障害としては、「デジタル人材やスキル不足」(26%)が多く挙げられた他、「機能や部門のサイロ化」(17%)、「老朽化したシステムの継続利用」(15%)も課題として報告されている。これらは、支出データの可視性向上やAI導入を阻む要因伴っている。
本調査の結論として、不確実性が高まる時代において支出管理の高度化が利益創出とデジタル変革を推進するための重要な施策になっていることが示されている。日本企業に求められるのは、全社的な支出データの可視化とリアルタイムでのアクセス性の確保、施策活用につながるデータ処理の迅速化とされ、AI活用はこれらの課題解決に寄与する可能性が高く、導入が期待されている。
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