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アクセンチュアが説く「AIを活用した企業変革の勘所」とはWeekly Memo

企業はAI活用をどのように進めるべきか。AIを活用した企業変革の勘所はどこか。アクセンチュアが目指す「デジタルツイン・エンタープライズ」の姿や考え方から探る。

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 企業の経営は「ビジネス」「マネジメント」「IT・デジタル」の3つの観点で捉える必要がある。だが、今、注目を集めている企業のAI活用においては、IT・デジタルはもとよりビジネスとしても話題に上ることが多いものの、マネジメントの観点での論議はまだまだ少ないのではないか。そう感じていたところ、アクセンチュアから興味深い話を聞けたので、今回はその内容を紹介しつつ考察したい。

AIプラットフォームで重要な「5つの要素」

 アクセンチュアが2025年9月9日に開いた「AIによる企業変革」をテーマとした記者説明会では、同社がかねて掲げている「AIエージェントによるデジタルツイン・エンタープライズの実現」に向けた最新動向を、同社のAI分野のキーパーソンである保科学世氏(執行役員 ビジネスコンサルティング本部 データ&AIグループ日本統括 AIセンター長 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括)が説明した。


アクセンチュアの保科学世氏(執行役員 ビジネスコンサルティング本部 データ&AIグループ日本統括 AIセンター長 アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括)(提供:アクセンチュア)

 「企業は今後、現場のオペレーションから経営層による事業運営上の重要な意思決定や戦略策定まで、全ての活動がAIとの協働にシフトする。加えて、AIエージェントを仮想顧客として活用することで、相対する市場のデジタルツイン化も可能になる」

 会見でこう切り出した保科氏の話から、本稿では「AIエージェントを活用した社内オペレーションの実行」について取り上げたい。

 同氏はまず、AIエージェントを巡る動きとして次のように話した。

 エージェント同士の連携方法を規定する「A2A」(Agent-to-Agent)と、エージェントが外部システムをつなぐプロトコル「MCP」(Model Context Protocol)が登場したことを挙げ、「AIエージェントが広く活用される土台が整ってきた」との見方を示した(図1)。


図1 AIエージェントをつなぐための2つの共通仕様(出典:アクセンチュアの会見資料)

 AIエージェントについては、既に特定のアプリケーション向けのものや開発環境が多数出現しており、「一般ユーザーにとってもAIエージェントが身近な存在になりつつある」(保科氏)とも述べた。図2は、「IT製品を生かす」「業務支援」「開発ツール」の3つに分けて代表的なAIエージェントを記したもので、この分類の仕方は参考になるだろう。


図2 AIエージェントの大分類(出典:アクセンチュアの会見資料)

 図2のような分類がある中で、保科氏は「さまざまなAIのソリューションやサービスが登場する一方、全体を貫く設計思想がなければ機能の寄せ集めになるリスクがある。世の中の技術を組み合わせ、AIと企業データの価値を最大化するAIプラットフォームの重要性が増している」と述べ、「今はその仕組み作りが非常に大事だ」と力を込めた(図3)。


図3 AIプラットフォームの必然性(出典:アクセンチュアの会見資料)

 その上で、同氏は企業におけるAIプラットフォームの仕組み作りに向けた重要な要素を、次のように5つ挙げた(図4)。


図4 企業におけるAIプラットフォームの仕組み作りに向けた重要な要素(出典:アクセンチュアの会見資料)
  1. 「AIの進化への備え」: 「進化するAIにどう素早く対応していくか。見方を変えれば、素早く対応できる仕組みにしていくかだ」(保科氏)
  2. 「複数AIの組み合わせ」: 「汎用(はんよう)の生成AIは賢いが、個別事業の予測や最適化などについては、個別事業の専門の生成AIの方が性能が高い。なので、それぞれの生成AIの特徴を見極めながら組み合わせることが肝要だ」(同)
  3. 「責任あるAIへの備え」: 「生成AIならではのハルシネーション(幻覚)やセキュリティの対策、さらにエンタープライズでの使用に耐え得るパフォーマンスを出せるかどうかだ」(同)
  4. 「社内情報との連携」: 「自社のデータを使い、自社でしっかりと学習して進化していく仕組みにしないと、結局は他社とも差別化できなくなる」(同)
  5. 「外部サービスの積極活用」: 「自社固有の取り組みの一方で、社外のサービスでも適用できそうなものはどんどん取り入れていこうという姿勢も大事だ」(同)

 保科氏によると、アクセンチュアにおいては上記の5つの要素を備えた「AI HUB Platform」を提供している(図5)。


図5 「AI HUB Platform」の概要(出典:アクセンチュアの会見資料)

 同社はAIエージェントによるデジタルツイン・エンタープライズの実現を目指していると先述した。その世界観を描いたのが図6だ。

 AIによる企業変革としては、図6の左側のように「生成AIは個人や企業のパートナーに」なる形から始まったが、これからは右側のように「専門性を持つAI同士の対話によって企業全体を最適化」する形になるということだ。


図6 AIがもたらすデジタルツイン・エンタープライズの世界観(出典:アクセンチュアの会見資料)

AIによる企業変革を推進する3つのポイント

 一方、AIによって企業変革を進める上で、リスクはどのようなことが考えられるのか。保科氏はAIエージェントのリスクとして、次の3つを挙げた。

  1. 「AIエージェントが点の活用にとどまり、プロセスがつながらない」: 「AIエージェント単体ではプロセスの一部(点)しか担えない。そうなると、各所で部分最適が進んでしまい、ビジネス視点での全体の統合が進まない」(保科氏)
  2. 「人間の検証がプロセス全体のボトルネックになってしまう」: 「精度やハルシネーションの問題から、AIの実行結果をうのみにはできない。人間による検証が必要だが、その作業がAIの生成スピードに追い付かず、プロセス全体の効率化が限定的になってしまうリスクがある」(同)
  3. 「知見が分散し、ノウハウとして蓄積されない」: 「個々のタスクで得られた成功体験や知見が、それを実行したAIエージェントに閉じてしまう。全体で学習し成長するための仕組みがなければ、真の価値創出にはつながらない」(同)

 こうしたリスクを挙げた上で、保科氏は「あるべき業務の姿を見据えた上でAIエージェントを適材適所で配置し、統括する仕組みが重要だ」と述べた。その仕組みが、AIプラットフォームだ。

 では、そうした中で、人間がやるべきことは何なのか。同氏は「人間ならではの価値にフォーカスすればよい」と言って、その「人間ならではの価値」について次のように説明した。

 「生成AIによって大半のデスクワークが自動化されることで、社内業務の多くがAIで代替できるようになる。そうした中で、人間の業務価値はデスクワークから現場での価値にシフトし、現場の課題を捉え、人間の心を理解し、ビジネスを動かすことがより重要になる」

 さらに、こう続けた。

 「人間はマシンではない。感情を持った生き物だ。その感情に寄り添いながらも“信頼される関係”になることが重要だ」

 この“浪花節”が入った保科氏の考え方に、筆者は共感する(図7)。


図7 人間がやるべきことは何か(出典:アクセンチュアの会見資料)

 同氏は最後に、AIによる企業変革を進める上での重要なポイントとして、「ビジネス・業務を変える」「人財・組織を変える」「基盤を変える」の3つを挙げた(図8)。


図8 AIによる企業変革を進める上での重要なポイント(出典:アクセンチュアの会見資料)

 その上で、同氏は「大事なのはこれら3つのポイントを“三位一体”で進めることだ。その意味では、企業にとってAIの活用はまさに大変革として臨むべき取り組みとなる」と力を込めた。「大変革として臨むべき」とは、マネジメント視点だと「AI活用を大変革に利用せよ」とも受け取れる。

 僭越(せんえつ)ながら、筆者は本稿の末尾に記した略歴にある通り、「ビジネス」「マネジメント」「IT・デジタル」の3分野をテーマに取材活動に取り組んでいる。保科氏が言う「企業の大変革」はまさしくこの3分野を包含した動きなので、取材も“三位一体”の視点で進めていきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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