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NTTの「特化型AI」戦略とは? 生成AIのビジネス活用における“勝ち筋”を探るWeekly Memo

企業がこれから生成AIを社内業務だけでなく、ビジネスに活用するためにはどうすればよいか。NTTが注力する「特化型」の生成AIの活用戦略からヒントを探る。

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 企業はこれから生成AIを社内業務だけでなく、外に向けたビジネスにもどんどん活用すべきだ。それが企業にとって真のDX(デジタルトランスフォーメーション)ではないか。業種を問わず、デジタル企業を目指すことこそが、これからの企業の「勝ち筋」ではないか――。

 筆者はかねてそう考えてきた。NTTが打ち出した新たなAI戦略にピンと来るところがあったので、今回はその内容を取り上げて上記の仮説について考察したい。

「特化型AI」とは? NTTが打ち出した新たなAI戦略

 NTTは2025年10月20日、新たなAI戦略として、生成AIの基盤となるLLM(大規模言語モデル)の最新版「tsuzumi 2」の提供を開始した。汎用(はんよう)的なLLMの普及に伴う電力消費やコスト増加といった問題の解決に向け、軽量でありながら高性能な日本語処理性能を持つのが特徴だ。


NTTの島田明氏(代表取締役社長)(筆者撮影)

 その発表会見で説明に立ったNTTの島田明氏(代表取締役社長)は、「当社が開発して2024年3月に発売したtsuzumiは、これまで国内外でさまざまな業種や事業規模のお客さまから1800件を超える受注をいただいている」との手応えを語った。

 受注の内訳を業種別および事業規模別に示したグラフが、図1だ。

 業種別は、自治体をはじめとした「公共」、銀行・保険などの「金融」、各業種の「企業」が上位から並ぶ。事業規模別では、大小を問わず幅広い形で広がっている。


図1 Tsuzumiの受注の内訳(出典:NTTの会見資料)

 島田氏によると、受注金額では、国内外を合わせて2024年度で436億円だったのが、2025年度は1500億円、2027年度には5000億円を超える見込みだ。

 ただ、同氏は「AI市場が急速に進展する一方で、安全保障や産業競争力の強化という観点から、各国では自国開発のAIを重視する動きが活発化している。日本政府においてもAI基本計画において国産AIの開発および強化に向けた取り組みが進められている。特に、政府および個々の企業が保有する機密データや各分野の現場のデータはそれぞれのノウハウやナレッジ、インテリジェンスが集約されているので、安全保障や産業競争力の観点から真に守るべき領域となっている」とも説明した。最近、耳にするようになった「ソブリンAI」はその象徴的な言葉だ(図2)。


図2 「ソブリンAI」の動き(出典:NTTの会見資料)

 「当社が開発したtsuzumiはそうした真に守るべき領域に対応したプライベートLLMとして、安心して使っていただける純国産モデルだ」と述べた島田氏は、その特徴として「質の高い日本語学習データ、日本の文化や習慣を理解できる」「学習データのコントロールによって権利を保護できる」「仕様や品質を自ら決定し、開発プロセスをフルコントロール」「リリース・ライセンスをコントロールして安定的に提供」といった点を挙げた(図3)。


図3 Tsuzumiの特長(出典:NTTの会見資料)

自社の学習データを生かしたAI活用を目指せ

 そうして1年半前に商用開始したtsuzumiをアップグレードしたのが、今回発表したtsuzumi 2だ。同氏によると、「tsuzumiを提供開始して以降、お客さまのさまざまなニーズをお聞きし、その声やマーケティング動向をNTTの研究所へフィードバックし、今回のアップグレードに反映させた」という(図4)。


図4 tsuzumi 2までの変遷(出典:NTTの会見資料)

 同社では、そうした研究開発サイクルによってアジャイルな商品化を今後も追求する構えだ。島田氏によると、実際に今回のアップグレードでは、これまでの顧客の要望を反映して、次のような機能強化を重点的に図ったという。

 「初期版において8割を超えるお客さまから、企業固有のノウハウが記載されたマニュアルや社内資料の読み込み、その要約などにもっと活用したいとのご要望をいただいた。そこで、最新版ではそうしたニーズに応えるために、複雑な文脈や文章の理解力などの学習面を強化した。また、専門知識が求められる業務への対応については、特に要望の高かった金融や医療、自治体の専門知識の学習を強化した」(図5)


図5 研究開発サイクルによるアップグレード(出典:NTTの会見資料)

 改めてtsuzumi 2の進化について、同氏は「従来のtsuzumiが持つ強みである1GPUで動作する省コストでの運用や高い日本語処理性能はそのままに、業務への適応力を強化した。具体的には、企業内のドキュメントにおける複雑な文脈や意図の理解、長文読解や指示遂行能力を強化した。特化性能としては、特定業界知識の強化やカスタマイズ用データ量の省コスト化を図った」と説明した(図6)。


図6 tsuzumi 2の進化(出典:NTTの会見資料)

 なお、tsuzumi 2の詳細については発表資料を参照してほしい。

 今回のNTTの会見での島田氏の話で、筆者がピンと来たのは「政府および個々の企業が保有する機密データや各分野の現場のデータはそれぞれのノウハウやナレッジ、インテリジェンスが集約されている」との発言だ。同氏は「安全保障や産業競争力の観点から真に守るべき領域」として説明していたが、「企業にとってはこのアドバンテージこそ、生成AIを社内業務だけでなく、ビジネスに活用すべきではないか」というのが、筆者の提案だ。

 企業はこれまでIT化を進めることによって、社内業務やビジネスに関するデータを蓄積してきた。そして、それを経営に生かすため、さまざまなITツールを使って生産性の向上を図ってきた。データはビジネスの成長にも活用されてきたが、多くの企業が本当にデータを生かせてきたかというと、まだまだ道半ばだろう。

 それが、生成AIによって、個々の企業が自らのデータを生かし、デジタル企業となってビジネスを広げる時代がいよいよ来たというのが、筆者の見方だ。

 どういうことかというと、個々の企業には島田氏が言うように「それぞれのノウハウやナレッジ、インテリジェンスが集約されている」データが蓄積されているが、それは生成AIからするとまさしく「学習データ」だ。従って、その学習データを使った生成AIは、企業にとってオリジナルなビジネスの攻めのツールになり得る。それをAIエージェントに適用すれば、その企業にとって頼もしいセールスマンにもマーケッターにもなり得るだろう。

 さらに、デジタル企業として、自社の学習データを使った生成AIを活用して、例えば自社のコンテンツを基にしたAIサービスをSaaSとしてビジネスに仕立てることも考えられる。しかもそれをグローバルにセールスできるようになるのだ。

 この話で大事なのは、自社独自の学習データがあれば、どの企業にもチャンスがあるということだ。これは、エッセンシャルワークをベースとした企業も同様だ。むしろ、そういう企業こそ、DXの伸びしろは大きいというのが、これまで取材をしてきた筆者の見方だ。なぜかといえば、貴重な現場のデータがあるからだ。

 その意味で、生成AIは本当に使えるツールだ。どの企業もぜひ、生成AIを活用してデジタル企業を目指していただきたい。冒頭でも述べた通り、それこそがこれからの企業の勝ち筋だろう。NTTが注力する「特化型AI」から、そんなことを考えた次第である。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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