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保守の「脱・人月ビジネス」化は進むか それでも残る仕事は何か編集部コラム

富士通が発表したAIドリブン開発基盤は「顧客のシステム保守で疲弊するSIer」を過去のものにできるだろうか。富士通自身のプラットフォーマーへの転換にも注目したい。

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 「制度改定に伴うシステム改修にかかる工数が3人月かかっていたものを4時間で完了させられる。生産性は100倍だ」ーー。2026年2月17日、要件定義から結合テストまでの一連の開発プロセスをAIが自律的に進められるプラットフォームを富士通が発表した。パートナーや顧客を巻き込んだコミュニティ化を進める。

 富士通が発表したのは「AI-Driven Software Development Platform」(AIドリブン開発基盤)だ。大規模言語モデル「Takane」を活用し、ソフトウェアの要件定義から設計、実装、結合テストまでの全工程をAIエージェントが協調して実行する。複数のAIエージェントが人手を介さず工程を自動実行することで、システム開発の在り方をAIドリブンへ転換するとしている。


複数のレイヤーで異なるロールを持つAIを設定し、チェックなどの工程も自動化した他、独自の技術を使い、大規模なドキュメントやコード類を扱えるように整備した(富士通の発表資料より)

法令対応などの頻繁なシステム改修を100倍の生産性で 変わるSIの価値

 第一段として医療業界、行政向けシステムに適用する。既に2026年診療報酬改定に伴う改修に適用を進めており、2026年度中に富士通Japanが提供する医療および行政分野の全67業種向け業務ソフトウェアの法改正への適用を目指す。

 2024年度の法改正対応に関する実証実験では、約300件の変更案件のうち1案件で、従来手法では3人月を要した改修を4時間に短縮し、生産性を100倍に向上させる効果を確認したという。富士通の國分出氏(公共・社会インフラビジネスグループ 特定プロジェクト対策室 室長)によれば、AIが担う処理は「一瞬で完了」する。4時間というのは人間が確認するプロセスを踏まえたものだ。

 本基盤は、富士通がCohereと共同開発したLLM「Takane」と、富士通研究所が開発した大規模システム開発向けAIエージェント技術を中核に据える。法令文書の変更内容を分析して設計書やソースコードと突合し改修箇所を特定する法令理解技術、自律的に品質検証を行う設計・監査技術、組み合わせテスト仕様とテストコードを生成する結合テスト生成技術により、ウォーターフォール型開発プロセス全体を自動化する。

 同社は、本基盤により法改正や制度改定への迅速な対応を可能にし、改修確認に伴う負荷を軽減することで、患者や住民向けサービス向上の企画・開発に時間を振り向けられるとする。また、拡大するIT需要や人材不足といった社会課題の解決にも寄与すると位置付ける。

 今後は金融、製造、流通、公共分野へ適用範囲を拡大し、顧客やパートナー企業向けのサービス提供も開始する計画だ。複数企業・団体からは、レガシー資産の維持保守負荷の軽減や暗黙知の形式知化を促す取り組みとして期待の声が寄せられている。富士通は、本基盤を業界標準へと発展させ、AI時代の新たなシステム開発モデルの確立を目指す。

「SIer不要論」ではなく「SIerのロールが変わる」プラットフォーム

 富士通はさらに、AIが既存システムを正確に理解し高信頼な自動化を実現する前提として、資産や知識を整備する「AI-Ready Engineering」を推進する。AIドリブン開発基盤と両輪で展開し、従来の人月ベースから顧客提供価値ベースへの転換を図る。

 同プラットフォームの適用に当たって課題となるのは、既存システムのドキュメント整備だ。レガシーなシステムの場合、ドキュメントが実際の挙動や実装と合致しなかったり、記録のない改修が施されていたりといった問題があるため、AI-Readyな状態を整備する部分に相応の工数がかかる。

 この点について同プラットフォームのビジネス展開をリードする岡田英人氏(AI戦略・ビジネス開発本部 本部長)は「AIに課題を抽出させるなどの手法を活用して将来的には3カ月程度で対応できるようにしたい」と説明した。

 日本のIT業界では日本的商習慣の是非や内製化推進の文脈で「SIer不要論」が定期的に話題になる。では、富士通が発表したプラットフォームが全てのSI業務を代替するものかというと、そうではない。

 岡田氏は質疑で「われわれの強みはいままで保守を担ってきた人材が持つ強固なドメイン知識にある」と語った。いくらAIが優れていても、商習慣や法令解釈、業界ごとに蓄積されたノウハウ、ドキュメントの解釈の在り方が正しくなければ期待した成果は得られない。同プラットフォームのような仕組みが普及すれば、SIerは、実務者(=AI)を正しく育て、指導する役割を担うようになるだろう。

 日本企業のIT投資に占める「保守・運用」の割合は依然として高い。同プラットフォームは一度対応すれば、将来にわたってAIを活用した保守が可能になる仕組みだ。同社顧客のIT投資の構成を変えつつ、同社自身もSIやパッケージソリューション販売からプラットフォーマー的なビジネスへの転換を図るチャレンジになりそうだ。

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