マツダはAIをどう全社展開している? 「トップダウンで進めるボトムアップの取り組み」とは:Weekly Memo
どうすればAI活用を全社に展開できるのか。生産現場も含めて全社展開しているマツダの取り組みから、専任推進組織の在り方や、生産性倍増に向けた活動のポイントを探る。
AIの活用を全社に広げることが、企業にとって大きな課題となっている。AI活用は業務の生産性向上だけでなく、さまざまな価値創造につながることから、企業競争力の決め手になり得るからだ。では、どう広げていけばよいのか。自動車メーカー大手のマツダの取り組みから考察する。
AX推進の専任組織を設けて全社展開へ
「マツダのDX(デジタルトランスフォーメーション)は、開発と生産領域の業務効率化を目的にスタートし、ものづくり革新からマツダらしい価値創造を目指して全社へと活動を広げている。今、注力しているAX(AIトランスフォーメーション)もその活動の一環だ」
マツダ 常務執行役員 兼 CIO(最高情報責任者)の木谷昭博氏は、米Adobeの日本法人アドビが2026年3月10日に都内で開催したプライベートイベント「Adobe AI Forum Tokyo」において、マツダのDXおよびAXの取り組みをテーマとした特別講演でこう切り出した。その中で特にAXの全社展開についての話が興味深かったので、今回はその内容を紹介し、AI活用の全社展開について考察する。
木谷氏はマツダで現在推進している「目指す姿」として、同社が2030年の経営方針の柱の一つに掲げる「人とITの共創による価値創造」を挙げた。具体的には、「『BLUEPRINT』活動による組織風土改革」と「DX・AXによる業務構造改革」によって生産性倍増を目指す。そのために人の能力を最大化し、生産性を上げた分、価値創造業務に集中できるようにするというものだ(図1)。
同氏は図1の左の描写について、「組織風土改革は人事部門、業務構造改革は私が率いるIT部門が担いつつ密接に連携しながら、間接業務だけでなく生産現場も含めて全社展開を図っている」と説明した。
IT部門が担うDX・AX推進活動については、「間接業務ではこれまでもDXを進めてきたが、生成AIが出てきて、これこそ画期的な効率化の手段だと感じた。これを活用するためにも業務を再点検し、定型的なエッセンシャル業務についてはAXをどんどん進め、人による付加価値業務の時間を増やす」ことを目指した。図2はその目指す姿を財務部門として描いたもので、これまでエッセンシャル業務にかけていた大半の時間を、付加価値業務に多くかけるようにしようと取り組んでいる。
木谷氏は業務の再点検について、「例えば、生産性倍増に向けて20人で担当している業務を10人でやるためにどうすればよいか。業務プロセスを細かく分析して時間を測り、AIをはじめとしたDXによってどのように再設計すれば効率化できるかについて、それぞれの業務について徹底的に再点検している」と説明した。
そうした取り組みの一方で、業務の効率化に大きな効果を期待できるAXをどのように全社に展開していくか。これもDXを推進するIT部門の重要な役どころとなっている。そこで、木谷氏が陣頭指揮を執って2025年9月に立ち上げたのが、AX推進の専任組織「MAZDA AI TRANSFORMATION」(MAX)プロジェクト室」だ。目的は「全社のデータ連携基盤の構築とAXによる業務変革をリードする」ことにある。
実は、この新組織の誕生には背景がある。木谷氏によると、「生成AIが出始めて間もなく『AI道場』というトレーニングの場を社内で設け、各部門から『使ってみたい』と希望する従業員を募って実施してきた。MAXプロジェクト室はそれを発展させたもので、ここにIT部門と共に社外からもAIに精通した人材を集約する一方、社内の各部門からAX人材育成に向けて従業員を出してもらい、適時メンバーを入れ替えながら、トレーニングやAIエージェントの開発、AXでの課題解決に向けた活動を実施している」とのことだ(図3)。
同氏はAI道場からMAXプロジェクト室の立ち上げについて、「AIの活用はスピード勝負との強い実感がある。そう思っていたところ、社長も同様に強い意思があったのでどんどん突き進んだ。ボトムアップの取り組みをトップダウンで押し進めたことで、素早く動けた」との手応えを語った。とはいえ、「こうした取り組みが企業として大事なことは実感しているが、効果をどのように生み出せるかはまだ実験段階。課題が出れば改善しながら取り組みたい」とも述べた。
AI活用へ従業員のモチベーションを上げるには
新設のMAXプロジェクト室の目的には、「全社のデータ連携基盤の構築」も挙がっている。木谷氏はこの点について図4を示しながら、「いろいろなところから集めたデータをクラウドで一括管理し、経営ダッシュボードで見られるようにしている。これにより、分析や考察、新発見をサポートするために必要な情報を瞬時に見えるようにして、意思決定サイクルの高速化と全社の行動変容の実現に貢献したい」と説明した。この経営ダッシュボードにもAIをどんどん実装する構えだ。
同氏はこれからのAXのチャレンジとして、特に「商品開発プロセスの変革」と「ITシステム開発・運用の変革」にAIエージェントを適用することを挙げた。「この2つの変革にAIエージェントが非常に効果を発揮する」と見ているからだ。
そのうち、商品開発プロセスの変革について、現状を示す「As-Is」と将来あるべき姿の「To-Be」を示すと次のようになる。
図5はAs-Isを示したもので、「至るところに『Microsoft Excel』が散在しており、人力でデータをチェックしたり転記したりしなければならず、サイロ化したレガシーシステムが依然として稼働している状態」とのことだ。
これに対し、図6に示したTo-Beでは、「ソフト開発向けのALM(アプリケーション・ライフサイクル管理)やメカ開発向けのPLM(プロダクト・ライフサイクル管理)にデータを集約し、AIをフル活用する」構えだ。
以上が、木谷氏の講演内容だ。筆者が最も興味深かったのは、AI活用の全社展開に向けたMAXプロジェクト室とその背景にあるAI道場の活動、そして、そうしたボトムアップの取り組みをトップダウンで押し進めていることだ。
さらに同氏はこの取り組みによって、「AIに定型業務を任せて生産性向上を図ることで、人はこれまでやりたいと思っていたことがどんどんやれるようになる」とも語った。このアグレッシブな姿勢こそが、AI活用に向けて従業員のモチベーションを上げる最大のポイントではないだろうか。
最後に一言。木谷氏の講演ではAdobeの話が全く出てこなかった。が、AIをはじめとしたAdobeのテクノロジーやサービスは、マツダでも利用されている。こうした見せ方に、むしろAdobeのスマートさを感じたことを付記しておく。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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