AI前提で業務プロセスを再設計する「ビジネスオーケストレーション」に迫る:業務を担うのは「人間1割、AI 9割」へ
AIエージェントの台頭によって、業務の自動化は「作業の代替」から「役割の代替」にフェーズが変わりつつある。しかし、日本企業の多くは業務の属人化が“壁”となってAIの力を引き出せていない。この課題を解消してAI活用を前提とした業務変革を図る「ビジネスオーケストレーション」(BO)のアプローチとその実践手段に迫る。
生成AIの急速な進化によって業務の自動化は新たなフェーズを迎えているが、多くの日本企業はAIの恩恵を享受できていない。日本企業のAI活用を阻む構造的な課題を解消し、業務そのものを変革するアプローチとして注目を集めているのが「ビジネスオーケストレーション」(BO)だ。
BOの実践による変革を支援し、2025年12月に書籍『AIエージェント時代のDX ビジネスオーケストレーションの衝撃』(日経BP)を上梓したB&DXの安部慶喜氏と、BOを実現する自動化プラットフォーム「TotalAgility」を日本国内で展開するオープンの石井岳之氏が、日本企業が抱える課題とその突破口を語った。
「業務の属人化」が日本企業の足を引っ張っている
日本企業におけるITシステム導入は「コスト削減」という呪縛にとらわれてきた。安部氏は、いわゆる「失われた30年」の要因を次のように指摘する。
「日本企業はバブル崩壊後、さまざまなシステムやデジタルツールを導入しました。しかしその目的の多くは、バックオフィスの効率化や単純作業の工数削減にとどまっていました」
その結果、RPAなどによって定型作業の一部は自動化したものの、削減された時間が新たな付加価値の創造に振り向けられていないというのが安部氏の見立てだ。「これまでのように既存の業務プロセスの延長線上で効率化を図るだけでは、これからの競争を勝ち抜くことは困難です」
近年、生成AIの進化に伴って新たに登場したのが「AIエージェント」だ。安部氏は従来の自動化ツールとAIエージェントの決定的な違いを次のように定義する。
「これまでの自動化ツールが『作業』を代替するものであったのに対して、AIエージェントは『役割』そのものを担います。あらかじめ決めたルールに基づき、環境の変化に合わせて自律的に判断して行動します。『人事の採用担当』という役割を与えれば、学生との日程調整から面接の手配まで一連の業務プロセスを完結させます」
自動化には段階がある。第1段階は定型作業を個別に自動化する「オートメーション」、第2段階が人による判断を挟みつつ複数作業をつなぐ「ハイパーオートメーション」、第3段階が業務プロセス全体を管理・改善しながらエンド・ツー・エンドで自動化する「BO」だ。
安部氏によると、AIエージェントの台頭は経営資源に大きな転換をもたらすという。「将来的には業務の9割をAIが担い、人間は残りの1割をこなすようになるでしょう。このような環境においては、AIという優秀な経営資源をいかに有効活用できるかが企業の勝敗を分けます」
しかしAIがいくら賢くなっても、活用する人間がAIに十分に適応できていなければ宝の持ち腐れになる。AI特有のハルシネーションやセキュリティリスクを抑え込むには、制約(ガードレール)を組み込み、ガバナンスを効かせた統制環境の構築が不可欠だ。そのためにもまずは業務プロセスを明確に定義する必要がある。
安部氏はこう断じる。「AIを活用できない理由はAIの性能ではありません。業務プロセスを明確に定義し、AIに的確な指示を出せる状態を作れていない企業側にあるのです」。この構造的な課題を打破する鍵がBOだ。
業務プロセスを可視化し、改善を可能にする「BO」
日本企業がAIをうまく使いこなせていない原因として安部氏がもう一つ指摘するのが、日本特有の「メンバーシップ型雇用」だ。欧米で主流のジョブ型雇用が「仕事に人を割り当てる」のに対して、メンバーシップ型雇用は「人に仕事を割り当てる」ものだ。従業員の帰属意識を高める一方で、業務の属人化を招きやすいという負の側面がある。
この結果、多くの日本企業で業務プロセスに暗黙知が増え、全社どころか部門内でも共有されていないケースが多い。こうした環境下で現場担当者は「自分の仕事は高度な判断業務の連続だ」と考えがちだが、安部氏はそうした思い込みを次のように斬る。
「現場が『高度な判断業務』と考えている業務の多くは、実は数百程度のパターン化可能な『ロジック』(条件分岐)の集合に過ぎません。これらのロジックが可視化されていないために、AIに業務を代替させるのが困難になっているのです」
こうした課題を解消し、AIエージェントを広範な業務に適用するための切り札になり得るのがBOだ。同じようなアプローチとして「ビジネスプロセスマネジメント」(BPM)があるが、BPMが業務プロセスの分析に主眼を置くのに対し、BOは業務の「描画(定義)」「実行」「記録」を一括で実行する点に特徴がある。
「BPMが過去の分析にとどまっていたのに対して、BOは業務の『描画、実行、記録』を一つの基盤で完結させる『ビジネスのOS』です」と石井氏は指摘する。現場の小さな工夫が業務プロセスに反映されるため、「システムと実態がバラバラ」という日本企業における積年の課題が解消されるのもポイントだ。
安部氏はBOの価値を次のように説明する。「BOの最も重要な価値は、業務プロセスを可視化することにあります。可視化されることで初めて業務プロセスの改善や取捨選択が可能になる。人が実行している処理だけでなく、システム間の連携やAIの挙動も含めて業務プロセス全体を定義し、それを指揮することで経営のスピードと柔軟性を飛躍的に向上させます」
「判断業務」こそ自動化する――TotalAgilityによるBOの実践
BOの概念を具現化し、実務レベルで稼働させる製品の一つが、TotalAgilityだ。業務プロセス管理機能とAIを組み合わせ、複雑な業務のオーケストレーションを実現する。
「紙の請求書や電子メールなどの非構造化データを業務で活用できる構造化データに高い精度で変換するIDP(Intelligent Document Processing)や、大手金融機関の要件にも応えるセキュリティ基盤を備えています」(石井氏)。業務の「入り口」が整っているからこそ、その先のオーケストレーションが機能する。
石井氏によると、TotalAgilityは金融・保険業界や製造業で導入が進んでいる。「保険業における保険金の支払いや製造業の受注業務などにTotalAgilityを適用して、人手を介さずに業務を自動で完遂するSTP(Straight Through Processing)を実現した事例が増えています。それまで数日〜数週間かかっていた処理が当日中、場合によっては数分で完了するケースもあり、事務コストを7〜8割削減した事例もあります」
安部氏はその先を見据えている。B&DXが支援しているある企業は、複雑な例外処理や判断業務を含む業務プロセス全体をTotalAgilityで自動化しようとしている。現在はPoC(概念実証)を終えて部門単位での実業務で運用を開始しているという。「ロジックで処理できる判断業務こそ、人ではなくAIに任せるべきだと考えています」
TotalAgilityの強みは「現場主導の設計思想」
判断業務を含む高度な自動化の実現をうたうツールは他にもあるが、TotalAgilityの強みはどこにあるのか。安部氏が評価しているのが「現場主導の設計思想」だ。
「TotalAgilityは、現場担当者にとっての分かりやすさと使いやすさを重視して設計されています。最初から100点満点のシステムを目指すのではなく、一部の業務から自動化を始めて現場が業務プロセスを修正し続けるアジャイルな改善が可能です。この柔軟性こそが、変化の激しい時代に不可欠な要素です」
石井氏も、AIが日進月歩する今日、一度作ったシステムを長期間使い続けるという前提はもはや通用しないと語る。「100点満点のシステムを数年かけて作る時代は終わりました。現場が主体となって、業務プロセスを日々『描き直し続けられる』プラットフォームが求められています。TotalAgilityは既存の基幹システム、AI-OCRやRPAなどの自動化ツール、さらに最新のAIモデルをつなぎ合わせる『接着剤』としての役割を果たすことでこれを実現します」
これまで利用してきたシステム全てを一括で刷新するのは現実的ではない。既存のIT資産を生かしつつ最新技術を利用できる点も、多くの企業にとって魅力だろう。
「AIをどう使うか」ではなく「人をどう使うか」
TotalAgilityのようなソリューションを通じてBOを実現した先には一体どのような未来が待っているのか。日本は人手不足が深刻化する「2030年問題」が懸念されているが、安部氏は全く逆の現象、つまり「人余り」が起きると予測する。
「BOによってAIエージェントの活用が進行した企業は、業務の大半が代替可能になるために人が余るでしょう。現代の経営者は人間だけを管理する『最後の世代』であり、AIを部下として使いこなす『最初の世代』になる覚悟が求められます」
業務の9割をAIが担う時代、人間にしかできない業務の追求も必要だ。「AI時代において経営者が真に考えるべきは、『AIをどう使うか』ではなく『人をどう使うか』です。日本企業の強みである人を大切にする経営は武器になります。日本企業には能力の高い従業員が多くいますから、AIにはできない創造的な仕事や人との信頼関係が不可欠な業務に大胆に配置転換することが望まれます」。リスキリングというレベルではなく、全く違う職業に就くような抜本的な役割転換ができる企業こそが、次の時代を勝ち抜くだろうと安部氏は予測する。
石井氏は、AI時代においてTotalAgilityは単なる効率化の手段ではなく、変革基盤としての役割を担うと力説する。「ただツールを入れて終わりではなく、BOという考え方そのものを経営層が実践する覚悟、そして現場自身で改善する力を根付かせることがAI時代の競争力の源泉になります」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
関連リンク
提供:オープン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2026年4月17日







