検索
連載

NECが語るAI時代の「新結合」とは? “何が新しいのか”を聞いてみたWeekly Memo

NECが新たなイノベーション創出拠点の開設を機に、AIを活用したイノベーション創出について打ち出した「新結合」とはどのようなものか。これまでの共創との違いに迫る。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 NECが「AIを活用したイノベーション創出のための4つの新結合」を打ち出し、新たな施設を開設した。この「新結合」の考え方は、AIを活用する全ての企業や組織に通じるものだと感じたので、今回はこの話をしたい。

NECがイノベーション創出拠点「NEC Innovation Park」を開設

 NECは2026年4月24日、神奈川県川崎市の同社玉川事業場に新たなイノベーション創出拠点として「NEC Innovation Park」を開設し、オープンセレモニーを開催した。新施設の詳細については発表資料(注1)に譲るとして、本稿では新施設の考え方に注目したい。


NEC Innovation Parkの外観(NEC提供)

 オープンセレモニーでは、NECの森田隆之氏(取締役 代表執行役社長 兼 CEO《最高経営責任者》)、川崎市の福田紀彦氏(市長)、東京大学の藤井輝夫氏(総長)があいさつに立ち、NECの吉崎敏文氏(執行役副社長 兼 COO《最高執行責任者》)と山田昭雄氏(執行役 Corporate EVP 兼 CAIO《最高AI責任者》)が説明役を務めた。また、慶應義塾大学の伊藤公平氏(慶應義塾長)もビデオメッセージを送った。


左から山田氏、藤井氏、森田氏、福田氏、吉崎氏(筆者撮影)

 あいさつおよびビデオメッセージでは、各氏が次のように述べた。

 「NEC Innovation Parkは、NECがこれまで長い間、中央研究所を構えていた場所に開設された。知の創造の場として外にも開放し、オープンイノベーションの拠点として広げようという思いで立ち上げた」(森田氏)

 「近年、多摩川沿いの川崎市内にイノベーション拠点を集約する企業が増えており、市内には現在550を超える研究機関が立地している。川崎市もこの強みを最大限に生かす取り組みにチャレンジしている。NECの新施設が、多様な知が交わる強力なハブとなり、社会を変革するイノベーションが次々と生み出されることを期待している」(福田氏)

 「NECと東京大学はこれまでさまざまな取り組みを共同で実施し、最近ではこの3月にAI分野での産学協創協定も締結した。新施設は多様な人々が集う場として、研究開発のみならず、人材育成の場としても大きな役割を果たされるものと期待している」(藤井氏)

 「NECには慶應義塾大学が推進する『慶應AIセンター』のパートナー企業の1社として支援いただいている。今後はその活動拠点としても新施設を活用し、先端AI人材の育成、そしてAIの社会実装の進展に向けた連携を一層深めたい」(伊藤氏)

 なお、NECと東京大学の新たな動きについては、2026年3月23日掲載の本連載記事「東大とNECを『AI分野での産学協創協定締結』に突き動かしたものとは」を参照されたい。

 NECによると、近年、働き方は「働く場所や時間を自ら選択するプロアクティブなスタイル」へと大きく変化した。これに伴い、オフィスの役割も単なる執務の場から「多様な人材が交流し、新たな発想と価値を共創する場」へと変容しているという。

 こうした状況で、同社は「AIをはじめとするテクノロジーが進化する中で、研究開発から生まれる最新技術をいかに迅速にお客さまのビジネスへ適用し、社会変革を推進するかが極めて重要だ」と、考える。「NEC Innovation Parkを研究とビジネスをシームレスにつなぐハブとする。また企業の枠を超えて人々が集い、アカデミアの知を融合し、パートナーとの連携を広げる知の創造の場として、イノベーションの創出と社会価値創造を一層進展させることを目指す」構えだ。

 その実現のための考え方としてNECが打ち出したのが、冒頭で挙げた「AIを活用したイノベーション創出のための4つの新結合」だ。具体的には「人と人」「人とテクノロジー」「テクノロジーとビジネス」「ビジネスと社会」からなる新たな結合だ。吉崎氏は、「こうした多様な新結合によって、新たな価値を創出したい」と力を込めた(図1)。


図1 イノベーション創出のための4つの新結合(出典:NECの説明資料)

なぜ、イノベーション創出のための4つの「新」結合なのか

 では、4つの新結合はそれぞれどのようなものか。山田氏が次のように説明した。

 まず、人と人の新結合では「エンジニアや研究者、デザイナー、AIアーキテクトなど合計約4000人の従業員が働く新施設はオープンな構造によってさまざまな職種の人たちが自由に出会い、多様な専門知が交わることで価値創造が進む。また、AIコミュニティマネージャーにテーマを相談すれば、そうした出会いを提案し、つないでくれる」とのことだ(図2)。


図2 人と人の新結合1(出典:NECの説明資料)

 新施設は「あつまる」「うまれる」「ひろがる」をキーワードにした空間が設けられており、「オープンな共創が生み出す多様なコラボレーションが図れる」ようになっている(図3)。


図3 人と人の新結合2(出典:NECの説明資料)

 人とテクノロジーの新結合は、「人と人の結びつきにテクノロジーを組み合わせる」ということだ。「当社では『クライアントゼロ』の下に最先端のテクノロジーを社内で大規模に実践してきた。新施設はそれを象徴するリファレンスビルとなっている。ここではAIをフルに活用した試みを実践している」という(図4)。


図4 人とテクノロジーの新結合(出典:NECの説明資料)

 テクノロジーとビジネスの新結合は「人とテクノロジーの結び付きをビジネスにつなげる」、しかも「企業の枠を超えた共創で新たな価値を創出する」ということだ。このため、さまざまな取り組みを新施設で実施する構えだ(図5)。


図5 テクノロジーとビジネスの新結合(出典:NECの説明資料)

 ビジネスと社会の新結合では、「人とテクノロジー、ビジネスの結び付きによって、社会に貢献する」、とりわけ「NEC Innovation Park発でAIネイティブな社会共創を広げたい」とのことだ。アカデミアとの取り組みもこの活動の一環だ。先に紹介した東京大学や慶應義塾大学との共同研究および社会実装へのチャレンジはこの代表例となっている(図6)。


図6 ビジネスと社会の新結合(出典:NECの説明資料)

 以上、4つの新結合について説明した山田氏は「4つの新結合によって組織、さらには企業の枠を取り払い、多種多様な人たちが集まり、そこで横断的なアイデアの創出やオープンイノベーションを進展させたい」と締めくくった。

 山田氏の説明で分かったのは、4つの新結合とは個別ではなく「人と人」からつながるものであることだ。ただ、「人」「テクノロジー」「ビジネス」「社会」の組み合わせによるイノベーション創出の論議は、かねて幾度も耳にしてきた。となると、これらの結合の何が新しいのか。「新結合」と表現した理由について、オープンセレモニーの後に吉崎氏と山田氏が対応したメディア向けの質疑応答で聞いてみたところ、吉崎氏が次のように答えた。

 「これからの働き方、研究や製品開発、ビジネスなどにAIが入り込む中で、人のスキルや役割が問われるようになる。その意味で、AI時代になっても人と人の結合が最も大事で、全てはそこから始まるという意図を込めて『新結合』と表現した」

 今、人とAIの関係についてさまざまなところで盛んに論議されている。AI時代になっても人と人の結合が起点になることを強調する意味で、NECは「新結合」と表現したという。そこにはむしろ「AI時代だからこそ」との思いがあるのだろうと、吉崎氏の力のこもった回答から感じた。

 今回のNECの新施設の話から感じたのは、4つの新結合はAIを活用する全ての企業や組織にとって取り組むべき活動ではないかということだ。その起点となる人と人の新結合を自社で実施するためにどうすればよいか。そこに「人間主導のAI活用」の本質的なポイントがあるのではないか。その意味で、NECの取り組みを参考にしたいところだ。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る