顧客の反応、意思決定にどう反映させる? Zoomの取り組みから「AI×CX」の進化を探る:Weekly Memo
企業のCXはAIでどう進化していくのか。その中で人が果たすべき役割は何か。AIで成果を生み出すための「CXの4つのステップ」を提唱する、Zoomの取り組みから探る。
AIがビジネスに活用される中で、いち早くその効果が表れ、進化が期待されている分野が「CX」(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)だ。CXはAIでどのように進化するのか。ビデオ会議ツールで存在感を高め、EX(エンプロイエクスペリエンス:従業員体験)とともにCXの分野にも注力する米Zoom Communications社が、その取り組みを日本で開催したイベントで説明した。その内容から、AIによるCXの進化を探る。
AIで成果を生み出すCXの4つのステップとは
「AIでCXは“新たな成果を生み出す”ソリューションへと進化しつつある。Zoomもビデオ会議の枠を超えて“人と人のつながりを強化するAIファーストなコミュニケーションプラットフォーム”へと進化していく」
Zoom Communicationsの日本法人ZVC JAPANの下垣典弘氏(代表取締役会長兼社長)は、同社が2026年7月7日に都内で開催したプライベートイベント「Zoom CX Summit Tokyo」のオープニングキーノートでこう切り出した。
AIで成果を生み出すCXとして、同氏はを次の4つのステップを挙げた(図1)。
第1ステップは「AIがコンタクトセンターのオペレーター(図1では「エージェント」と表記)を支援する」、第2ステップは「AIがスーパーバイザーを支援する」、第3ステップは「AIが創出した時間をCXに再投資する」、第4ステップは「ファンのエクスペリエンスが向上する」といった動きだ。
その上で同氏は、「AIの価値は、人を置き換えて時間を短縮することだけでない。人が本来やるべき仕事の時間を取り戻し、その時間をお客さまに対して還元できることにある。つまりAIを活用したCXにおけるわれわれのテーマは、効率化だけでなく、新たな成果を生み出すことにある」と強調した。
図2は、Zoom Communicationsが2011年に米国シリコンバレーで創業してから15年間でアップデートしてきた主要なテクノロジーを時系列で示したものだ。同氏は「Zoomの勢いは止まらない」と言い、「お客さまの声に基づいてアップグレードしてきたテクノロジーの進化が、その勢いとなって表れている」と説明した。
そして、同社のCX分野における現在のビジネス戦略を描いたのが、図3だ。
下垣氏に続いて説明に立った米国本社のCX事業責任者であるクリス・モリッシー氏(General Manager and Global Head of CX & GTM)によると、図3は左から右へ流れる内容で、「さまざまな手法による“会話(Conversation)”から始まり、そこからお客さまのフィードバックを得る。それに基づいて“意思決定(Decision)”し、“実行(Execution)”するということだ。現在のZoomは“会話から業務完結までを担うソリューション”を前面に打ち出している」と言う。
図3で注目すべきなのが、中央の上段の「Decision & Intelligence」および下段の「主要な業務ソフトウェア」だ。図では上段と下段に分けて描かれているが、モリッシー氏によると「(両者は)インテグレーションが進んでいる」とのことだ。インテグレーションが進む中央部分ではAIも活用されており、それによって「自律的な実行」(Agentic Execution)がなされるというわけだ。主要な業務ソフトウェアには、ZoomとともにSalesforceのCRM(顧客情報管理)、ServiceNowのITSM(ITサービス管理)、WorkdayのSoR(System of Record:基幹業務)、SnowflakeのData lake(データレイク)などが並んでおり、これらと連携可能な「AI時代のCXプラットフォーム」を印象付ける構図となっている。
CX対応のバックオフィス業務をAIで自動化へ
では、CXはAIによってこれからどのように進化するのか。モリッシー氏は次のように述べた(図4)。
「コンタクトセンターをはじめとした顧客とのエンゲージメントでは、電話や電子メールなどを通じてさまざまな問い合わせや要望、苦情などが寄せられる。コンタクトセンターのオペレーターなど顧客対応を担う従業員はそれらに対して迅速かつ的確に応えなければならない。コンタクトセンターではそうした業務を“アフターコールワーク”という。このアフターコールワークでは同様の問い合わせに対して同じことを答えるような繰り返し作業も多い。従って、こうしたワークフローをAIによってできる限り自動化できるのではないかということで取り組んでいる。これによって先に述べた“会話から業務完結までを担うソリューション”を展開する」
すなわち、顧客とのエンゲージメントという「フロントオフィス」では今後も人が担うところがあるが、それを受けてさまざまな対応業務を行う「バックオフィス」はできる限り自動化を図るということだ。
モリッシー氏はさらに、AIによるCXの進化について図5を示しながら、次にようにも説明した。
「コンタクトセンターでいうと、顧客から電話や電子メールなどで得た情報はセンター内にとどまり、全社で共有されることはこれまであまりなかった。しかし、企業にとって顧客とのエンゲージメントはコンタクトセンターだけでなく、店舗でのやりとりやさまざまな形での営業活動など広範囲にわたり、それら全てがCXの対象となる。そうしたCXに関わる情報から得られるインサイトを全社のあらゆる業務部門で共有し、企業の競争力強化につなげたい。そうした情報を迅速かつ的確に生かす仕組み作りがAIで可能になってきた」
図5は同氏の話にあるように、これまでのコンタクトセンターの姿を示した左の絵から、CXのインサイトを全社で活用する姿を示した右の絵に移行する様子を描いたものだ。右の絵の真ん中に「AI」が記されている構図が印象的だ。
同氏はまた、「われわれはコンタクトセンターを“リフレクションセンター”とも位置付けてきた。このリフレクションの取り組みを、AIを活用して全社に広げられるようにしたい。それも企業の競争力強化につながると確信している」とも述べた。
リフレクションは「振り返り」を意味する。ビジネス用語としては「自身の経験や行動力、思考プロセスを客観的に見つめ直し、そこから得た気づきを次の行動や成長に生かすためのプロセス」を指す。
AIによるCXの進化は、「顧客とのエンゲージメントから得られるインサイトやリフレクションを全社で共有してCXを高度化し、企業の競争力強化につなげる」ことにあるようだ。そうした企業活動をつかさどるのが、AIというわけだ。
ならば、人は何をやるのか。CXでは顧客とのエンゲージメントに関わるところでまだまだ果たせる役割はあるようだが、業務全般を考えれば、AIエージェントが自律的にどんどんこなすようになるだろう。そうした中で人がやるべきことは、AIを活用したこの仕組みを使ってもっと何ができるかを考えることではないか。これまでできなかった業務の変革や既存事業の刷新、そして新規事業の開拓など、ビジネスチャンスは広がっている。CXの進化はその意味でもしっかりと捉え続けて生かしたいところである。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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