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IBMはAIエージェントを“人材”としてどう運用している? 企業経営の基盤としてのAI活用を考察Weekly Memo

IBMが「人とデジタルワーカーの協働」について自社のユースケースを説明するとともに、これからの企業経営の在り方を示した。AIによる成果の全社展開を阻む4つの課題の解消方法とともに紹介し、考察する。

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 AIを活用して企業の経営を強化するためにはどうすればよいのか。この課題解決に向けた取り組み方について、日本IBMによる新ソリューションの発表会見の内容を紹介し、考察したい。ポイントは「AIツールを使うのではなく、デジタルワーカーと協働する」――。これは単なるAIの活用法ではなく、企業経営の在り方を問う話だ。

企業が“AI格差”を乗り越えるための要件とは?

 「これからはAIを経営に有効活用できるかどうかで、企業の間で“AI格差”がどんどん広がっていく。だからこそ、企業は“経営基盤のためのAI”をしっかりと実装し、AI格差を乗り越えなければならない」

 日本IBMの早川勝氏(執行役員CAIO《最高AI責任者》 兼 副CTO《最高技術責任者》)は、同社が2026年8月25日開いた「経基基盤のためのAI」についての事業戦略説明会で、こう切り出した。


日本IBMの早川勝氏(執行役員CAIO《最高AI責任者》 兼 副CTO《最高技術責任者》)(筆者撮影)

 AI格差とは、デジタル格差(デジタルデバイド)のAI版だ(図1)。


図1 AI格差とは(出典:日本IBMの会見資料)

 では、企業がAI格差を乗り越えるためにどうすればよいのか。早川氏は「個別業務の効率化だけではAI格差を乗り越えられない」とし、「AIとの協働のために仕事を作り変え、企業全体で運営する能力が競争力を左右し始めている」と述べた。

 具体的に、どのように取り組めばよいのか。

 これについて、早川氏に続いて登壇した日本IBMの川上結子氏(常務執行役員 成長戦略統括事業部長)が「人とデジタルワーカーの協働」について、IBM自身のユースケースを紹介しながら説明した。ちなみに、デジタルワーカーとはAIエージェントのことだ。同社は自社のユースケースの説明でデジタルワーカーと表現しているので、本稿でもそのまま表記する。


日本IBMの川上結子氏(常務執行役員 成長戦略統括事業部長)(筆者撮影)

 「今、IBMの同僚は人間だけでなく、4000を超えるデジタルワーカーが450を超えるプロジェクトチームで共に働いている。コンサルタントやアナリスト、アーキテクト、エンジニア、プロジェクトマネージャー、デザイナー、クリエイターなど、これまで人が務めてきた職種をデジタルワーカーが担っている」

 川上氏は図2を示しながら、こう説明した。


図2 人とデジタルワーカーが協働するIBMのユースケース(出典:日本IBMの会見資料)

 では、人は何をしているのか。同氏は、「方針を決めること」「責任を取ること」「倫理的な判断」「例外への対応」の4つを挙げた。その上で、「この取り組みは単にAIツールを導入したという話ではない。チームの構成が変わり、メンバーが人間だけではなくなった。これが現在のIBMの働き方の姿だ」と述べた。

 図3は、IBMにおいてデジタルワーカーを“人材”として運用する仕組みを示したものだ。同社では、数十の職種別のデジタルワーカーが、従業員と同じスキル認定のバッジを取得して、それぞれのプロジェクトチームに配備されている。川上氏によると、「採用、認定、配備、そして任務が終われば退任と、人事と同様の仕組みがデジタルワーカーに対しても適用されている」とのことだ。


図3 デジタルワーカーを“人材”として運用する仕組み(出典:日本IBMの会見資料)

IBMが「人とデジタルワーカーの協働」を推進する理由

 IBMではこうした「人とデジタルワーカーの協働」を2023年からクライアントゼロ(ゼロ番目の顧客)の取り組みとして推進しており、現時点で「全社を490の業務フローに分解し、そのうち70のプロセスをAI前提で再設計し、(2025年実績で)45億ドル規模の生産性向上の効果を創出した」(川上氏)という。これにより、AIユースケースとしては幅広い業務で150を超え、生み出した原資を注力領域に再投資しているとのことだ(図4)。


図4 クライアントゼロとしてのIBMの効果(出典:日本IBMの会見資料)

 川上氏は同社による調査から、AI活用を成果につなげるための条件についても、図5を示しながら説明した。


図5 AI活用を成果につなげるための条件(出典:日本IBMの会見資料)

 図5の左は、縦軸に「AIを適用しただけか、仕事を再設計したか」、横軸に「一部の業務で試行しただけか、全社に展開したか」を示した図だ。調査結果として、仕事を再設計し全社に展開して成果を上げている企業は15%にとどまったという。ただし、この15%の企業は同業他社と比べて収益で73%、営業利益率で11%上回ったことも分かったという。これをして川上氏は、「AI格差がこうした調査結果にも表れている」と述べた。

 なぜ、多くの企業におけるAI活用は個別業務の成果にとどまり、経営成果に広がらないのか。「それは、経営成果に結び付けるための基盤が不足しているから」という川上氏は、AIによる成果の全社展開を阻む課題として次の4つを挙げた。

  1. 業務をどう再設計するか: 「個別業務でAIが乱立すると、業務全体の再設計は遠ざかってしまう」(川上氏)
  2. 自社の知識をどうAIに与えるか: 「汎用(はんよう)モデルだけでは自社の業務に対応できない」(同)
  3. 人とAIをどう働かせるか: 「ツールの導入や研修だけでは、働き方は変わらない。経営層の認識と従業員の実態には大きな差がある」(同)
  4. 4つ目は、どう統制しROI(投資対効果)を管理するか: 「部門や領域ごとの管理のままでは、全社展開の際に採算と統制がままならない」(同)(図6)

図6 AIによる成果の全社展開を阻む4つの課題(出典:日本IBMの会見資料)

 では、この4つの課題を解消するために何が必要なのか。川上氏は「いずれの課題も、業務の再設計(業務レベル)だけでなく、再設計と実行拡大を続ける企業運営の仕組み(基盤レベル)が必要になる」と述べて、4つの課題それぞれについて業務レベルと基盤レベルの対応を示した(図7)。


図7 4つの課題を解消するために必要な要件(出典:日本IBMの会見資料)

 その上で、「人とデジタルワーカーの協働を図る上でつまずきやすいのは、基盤レベルの内容なので注意していただきたい」と述べた。

 なお、企業におけるこうした取り組みを支援するIBMの新ソリューション「IBM Enterprise Advantage」の内容については、発表資料(米IBMによる5月発表の翻訳)をご覧いただきたい。

AIツールを使うのではなく、デジタルワーカーと協働する

 最後に、筆者から一言。今回の日本IBMの会見で聞いた「IBM自身のユースケースとしての人とデジタルワーカーの協働」は、まさにこれからの企業経営の在り方を示していると感じた。改めて強調したいのは、「AIツールを使うのではなく、デジタルワーカーと協働する」ということだ。

 さらにいえば、AI格差は企業だけでなく個人にも起こり得る。それを解消するためには「社会基盤のためのAI」の推進も不可欠になるだろう。そして、社会基盤のためのAIと企業における経営基盤のためのAIの関係についても整合性を求められるようになるだろう。そうした視点で、今後もこれらの動きを注視したい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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