城南信用金庫×日本IBMが取り組む「地域DX」 従来の事業モデルから脱却できるか?:Weekly Memo
城南信用金庫が日本IBMと組み、品川区と協力して地域DXに向けた新たな取り組みを始めた。地域金融機関は少子高齢化などにより、従来の事業モデルでは立ちいかなくなってきている。新たなスキームによる地域DXの取り組みは奏功するか。
日本の課題の一つとして「地域創生」が叫ばれる中、地域の金融機関がITベンダーと組み、自治体と協力して「地域活性化のためのDX(デジタルトランスフォーメーション)」(以下、地域DX)を推進しようという動きが出てきた。
城南信用金庫が日本IBMと組み、第一弾として品川区と協力して進めている新たなWebコミュニティーサイトの構想を発表した。助成金や補助金といった、分散しがちな情報を必要とする人にいかに届けるか。地域の困りごとをどのように解決するか。今回はその内容を紹介し、新たなDXのスキームによる取り組みの狙いを探る。
住民や地域事業者、行政をつなぐコミュニティーサイトへ
「われわれが本日発表するのは、単なる新たなWebサイトの立ち上げの話ではない」
城南信用金庫の林稔氏(理事長)は、同金庫が2026年9月4日に開いた地域DXの新たな取り組みについての発表会見で、こう切り出した。会見には、連携した日本IBMの孫工裕史氏(常務執行役員)、来賓として品川区の森澤恭子氏(区長)が登壇した。
城南信用金庫が日本IBMと連携して取り組み始めたのは、「住民や地域事業者、行政をつなぐWebコミュニティーサイト」と銘打った「キャッスルタウン」(仮称)と呼ぶ構想だ。
同金庫によると、キャッスルタウン構想は「地域活性化を目的に信用金庫の強みである地域密着型のネットワークを新たにWebという場に移行し、“街”というキーワードでカジュアルに顧客同士をつなぐ場を提供するコミュニティー創生の取り組み」で、「顧客同士、顧客と行政とのネットワークをつなぐことで新たなコミュニケーションおよびビジネスの醸成を図る」としている。
林氏は冒頭の発言に続けて、次のように話した。
「キャッスルタウンは、地域にある情報、街の魅力、人と人のつながり、そして支え合う力をつなぎ直し、地域の皆さまの暮らしをより便利に、安心に、豊かにするための地域コミュニティーのプラットフォームをつくる構想だ。そのコンセプトは『つながる つくる わたしたちのまち』。地域の未来を誰かに任せるのではなく、住民の皆さま、地域事業者の皆さま、行政、そして私たち地域金融機関がつながり、共に考え、共につくっていくという想いをこのコンセプトに込めている」(図1)
「地域には暮らしに役立つ行政情報、魅力のあるお店や企業、心温まる地域活動など、多くの価値がある。しかし、そうした情報は分散し、必要とする人たちに十分に届いていないことがある。受け取れる助成金や補助金があることを知らなかったり、地域のイベントや身近なお店の魅力に気付かなかったり、離れて暮らす家族が高齢の親御さんを心配し続けたりといったことが起こり得る。キャッスルタウンはこうした日々のお困りごとに寄り添い、人と情報をつなぐことで地域の課題解決につなげようという取り組みだ」(図2)(図3)
第一弾の取り組みとしては、品川区と2024年6月に結んだ包括連携協定を活用し、区政情報をはじめ、地域の安心・安全や生活に密着した情報の発信を進める構えだ。サイトの本格的なオープンは2027年3月をメドとしている。
また、林氏は「キャッスルタウンは情報を一方的にお届けするのではなく、地域の皆さまが参加し、交流し、共に街をつくる。その中から地域の賑わい、新たなサービスやビジネスの芽を生み出していきたいと考えている」と、インタラクティブな場であることを強調した。
地域金融機関のデジタルツイン実現に向けた挑戦か
林氏はその上で、次のように述べた。
「信用金庫の使命は、地域経済の活性化に貢献することだ。城南信用金庫は長年培ってきた地域との信頼関係や地域に根差したネットワークと、日本IBMが有する技術や知見を組み合わせることで便利で安心して利用でき、人の温かさが感じられる地域の社会基盤をつくる。もちろん、最初から全てが整うわけではないが、まずは品川区での活動から一歩を踏み出し、利用される皆さまの声をうかがいながら、必要な機能やサービスを形にしていく。また、つくって終わりではなく、地域の皆さまと共に改善し、育てていく。そして、将来は品川区で生まれたこの仕組みを他の地域にも広げたいと考えている」
林氏と共に会見に臨んだ日本IBMの孫工氏は、次のように話した。
「日本IBMはこれまで、城南信用金庫といろいろ取り組んできた。今回のキャッスルタウンについては、早くから林理事長の熱い想いを聞き、当社の技術や知見を役立ていただけるのではないかと思い、連携を進めてきた。ただし、技術はあくまでも目的を達成するための手段だ。今回の目的は新たなサイトを通じて地域住民の方々のつながりのハブとなり、いろいろなコミュニケーションやお困りごとを解決することにある。この目的に向けて、当社の技術や知見を適用していくことで、この取り組みを効果的かつ利便性が高く、広範囲に拡充できるように尽力したい」
そして、来賓として登壇した品川区長の森澤氏も、「城南信用金庫と品川区は、包括連携協定に基づいて多岐にわたる分野でさまざまな活動を実施してきた。今回のキャッスルタウンについても区のさまざまな行政情報の掲載や地域の多様な魅力を発信するということで、区としても大いに期待を寄せている」と、新たな取り組みへの期待を述べた。
以上が、キャッスルタウンについての発表と会見での登壇者による発言の内容である。
地域金融機関は、存在感を発揮できるのか?
では、林氏が冒頭で、キャッスルタウンが「単なる新たなWebサイトの立ち上げの話ではない」と述べた意味はどういうことか。同氏が説明したように「地域コミュニティーのプラットフォーム」ということだろうが、城南信用金庫と日本IBMの狙いはもっと先を見据えているのではないだろうか。
そのキーワードとなるのは、現実と仮想の空間を使ってデジタル化を進める「デジタルツイン」だというのが、筆者の見立てだ。城南信用金庫にとってキャッスルタウンはデジタルツインの実現に向けたアクションであり、それは同金庫そのもののデジタル化を意味する。その構築をITベンダーとして支援する日本IBMは、キャッスルタウンの成功を足掛かりに同金庫と共に「地域金融機関のデジタルツインの取り組み」を「他の地域金融機関×他の自治体」へ広げていこうという思惑があるのではないか。デジタルツインではこれまで得られなかったさまざまなデータを入手できることから、それらを基にAIを活用すればさらなる効果も期待できる。
地域金融機関は、人口減少や少子高齢化などの社会構造の変化も相まって地域経済が停滞し、従来の事業モデルでは立ちいかなくなってきている。これからどうすれば存在感を発揮できるのか。今回の城南信用金庫の取り組みは、その答えを探すチャレンジともいえるだろう。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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