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富士通が脱人月モデルへ CROが説く「AI時代のバリュープライシングへの転換」とは:Weekly Memo

富士通がITサービス事業で従来の人月計算から価値起点のプライシングへとビジネスモデルの転換を進めている。AI時代に向けて必須となるこの動きは、ITベンダーもさることながらユーザーにとってもAIを使いこなしてROIを向上させるための戦略を左右する要素になりそうだ。

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 DX(デジタルトランスフォーメーション)、さらにはAX(AIトランスフォーメーション)が進むにつれ、ITベンダーがITサービスをユーザーに提供する料金形態において、従来の人月計算から提供価値をプライシングする形への移行に迫られている。こうした中、富士通が自らの取り組みについて明らかにした。その内容がベンダーにとってもユーザーにとっても参考になると感じたので、今回はこの話を取り上げたい。

バリュープライシングへの転換とはどういうことか

 「CRO(最高収益責任者)として、事業の収益構造を変革したい」

 富士通の大西俊介氏(執行役員副社長CRO)は、同社が2026年9月16日に開催した投資家・アナリスト向けの「IR Day 2026」でこう語った。


富士通の大西俊介氏(執行役員副社長CRO)(筆者によるキャプチャー)

 どう変革するのか。同氏は「バリュープライシングへの転換」と表現した。プライシングとは単なる値付けではなく、製品やサービスの価格を戦略的に設定・管理するプロセスを意味する。

 では、バリュー(価値)とは何か。

 大西氏は「AI時代にお客さまが求める価値は、サービスの提供量や工数だけでは測れない。お客さまがAIに期待する価値はさまざまであり、期待する価値を適切に反映したプライシングが求められる」と述べる。主に期待される価値として「スピード」「事業貢献」「持続可能」の3つを挙げた(図1)。


図1 プライシングで主に期待される価値(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 これまではどうだったのか。同氏は「コスト積算型プライシング」と表現し、「多くのITサービスは開発費や工数を基準に価格を決定してきたが、AI時代に求められる提供価値や事業成果の経済価値を十分に価格へ反映できていない」として、限界が来ていることを説明した(図2)。


図2 コスト積算型プライシングの限界(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 図2は、上段にシステム開発やコンサルティング、下段にアプリケーションやインフラサービスにおけるコスト積算型プライシングを示したものだ。とくに上段がすなわち人月モデルと呼ばれ、SI(システムインテグレーション)事業では今も多くがこの形態だ。現状ではどのベンダーもSI事業に陰りは見えないものの、同氏は「人月モデルのままでは株価は上がらない」と述べた。評価されないという意味で、説得力のある表現だと感じた。

 では、どのように変革するのか。大西氏は「AIが創出する価値を成長につなげるプライシング変革」と言い、「AIビジネスの特性に応じて『アウトカムベース』と『ユーセージベース』を適用し、提供価値の経済価値化を通じて成長機会と収益性の最大化を目指す」と説明した(図3)。


図3 AIが創出する価値を成長につなげるプライシング変革(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 図3は下からインフラの「ソブリンプラットフォーム」、ソフトウェアプラットフォームの「AIプラットフォーム」、業種・業務向けの「アプリケーション」、コンサルティングの「プロフェショナルサービス」と、同社の注力事業を4階層で描いたものだ。その中で、提供するサービスが生み出す成果に対して課金する「アウトカムベース」はコンサルティングに適用。また、提供するサービスの従量に対して課金する「ユーセージベース」は他の3つへの適用を進めている。

 以下、それぞれにどのような種類の課金モデルがあるのか、見ていこう。

2035年度にバリュープライシング比率80%へ

 アウトカムベースは、AIやシステムが創出する顧客成果を経済価値として捉え、導入効果やKPI(重要業績評価指標)達成、期間短縮などに連動した価格モデルに転換しようというものだ(図4)。


図4 アウトカムベースの課金モデル(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 モデルの種類としては、共同事業においてシステムやAIが生み出す価値をアウトカムとして分配して課金する「プロフィットシェア」、AI適用による納期短縮の効果を提供価値として課金する「エクスプレスサービス」、固定部分と成果KPIに連動する料金を組み合わせて課金する「ハイブリッド課金」、事前に定義されたユースケースと期間を基準にして課金する「ユースケース課金/Pod型」がある。

 一方、ユーセージベースは、顧客の利用量増加に応じて収益が拡大するモデルへと転換し、AIプラットフォームの普及とともに継続的な成長を実現しようというものだ(図5)。


図5 ユーセージベースの課金モデル(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 モデルの種類はアプリケーションやAIエージェントに対しては、ソフトウェア資産コード数に応じて課金する「ソースコード課金」、AIエージェントが扱った業務データ量に応じて課金する「データ量課金」、契約の成立数に応じて課金する「レベニューシェア」がある。また、AIプラットフォームに対しては、LLM(大規模言語モデル)に必要なコンピューティングリソース量に応じて課金する「段階別従量課金」、コンピューティングリソースの削減量に応じて課金する「削減量課金」がある。

 大西氏によると、同社ではこうしたさまざまな課金モデルの中で、アウトカムベースにおけるエクスプレスサービスの拡大に向けて、2026年7月から新たな取り組みを始めた。具体的には、従来は経済価値化が難しかった納期短縮の提供価値に対し、「AIプライシングCoE(センター・オブ・エクセレンス)」と現場サイドの「業種イネーブルメントチーム」が連携しながら顧客との対話と実践を重ね、継続的なフィードバックを通じて新たな価格モデルへの変革を推進しようというものだ(図6)。


図6 エクスプレスサービスの実現に向けたチャレンジ(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 それぞれの組織は、AIプライシングCoEがAIビジネスにおける価値の評価や価格設計ガバナンスを担うCRO直轄の戦略部隊であるのに対し、業種イネーブルメントチームは現場での実践を通じてバリュープライシングの実効性を検証し、価値訴求と制度の課題の解決を推進するのが役割だ。こうした仕組みにしたのは、戦略部隊と現場部門を連携させることによって、「戦略部隊だけで頭でっかちにならないようにする」(大西氏)ためだ。そして、こうした取り組みによって「お客さま(ユーザー)にとってもわれわれ(ベンダー)にとっても、納得性の高いバリュープライシングを確立したい」(同)というのが、同社の想いだ。

 富士通は今後、従来型SIやモダナイゼーション、そしてDX/AX支援ソリューション「Uvance」それぞれの提供価値に応じたバリュープライシングの適用を進め、売り上げ拡大と収益性向上を両立する収益モデルへの転換に注力する構えだ(図7)。


図7 富士通が目指す2035年度のバリュープライシング比率(出典:富士通「IR Day 2026」説明資料)

 具体的には、図7に示すように従来型AI、モダナイゼーション、Uvanceを合わせた事業のバリュープライシング比率として、2025年度に20%だった割合を2030年度に60%、2035年度には80%へ引き上げていく考えだ。

 これはすなわち、富士通のビジネスモデルは2030年度に転機を迎え、2035年度にはほぼ転換した形になるということだ。

 こうしたビジネスモデルの転換は、富士通に限らず、ITサービス事業を行っているベンダー全てに求められていることだ。その要となるのが、バリュープライシングの推進だ。また、ユーザーもバリュープライシングの内容をしっかりと把握して効果的に適用することが、つまりはAIを使いこなしてROI(費用対効果)につなげる重要な要件となるはずだ。その意味で、今回の富士通の説明を参考にしたいところである。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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